2017 Volume 16 Issue 5 Pages 147-148
We investigated the C–H bond cleavage of methane on various binary alloys using periodic density functional theory (DFT) calculations for catalyst screening. Cohesive energy, which strongly correlates with activation energy and heat of reaction for the C–H bond cleavage, was computed for 337 alloys in AFLOW database to enable rapid screening.
天然ガスの主成分であるメタンは水蒸気改質(要金属触媒,800 °C以上の条件)により水素と一酸化炭素の合成ガスに変えられ,その後種々の化合物へと変換されている.メタンを有用な化合物(エタン,メタノール等)に直接改質することは触媒化学の最重要課題の一つであり,その実現には理論計算による解析が重要である.
現在のメタン水蒸気改質反応では反応性やコストのために,主にNiが触媒として使われている.Figure 1にBlaylock等がDFT計算により明らかにした[1],Ni(111)表面上でのメタンのC–H開裂に伴うエネルギー変化を示した.初めの強固なメタンのC–H開裂の活性化エネルギーは129 kJ/molと極めて高いが,続く2回目,3回目の活性化エネルギーは比較的低く,CH*が他の中間体に比べて圧倒的に安定である.このため,メタン水蒸気改質反応に使われ,メタンをCH3*とH*に切断するほど活性の高い金属表面では,C–H結合の解離が進み,エネルギー的に最安定なCH*まで分解されてしまう.従来のプロセスでは,CH*を水によりCOに酸化することで資源化するとともに,コーキングを防いでいる.

Energy diagram for the C–H bond cleavage of methane on the Ni(111) surface. Data taken from ref. 1.
仮に反応途中段階のCH3*やCH2*をCH*よりもエネルギー的に安定にできれば,CH3*やCH2*の寿命が長くなり,エタンやエチレンなどに変換される可能性が高まる.我々は,このシンプルなアイデアを実現するため,DFT法を用いた網羅的な計算と,その結果を機械学習などから理解する触媒インフォマティクスにより,表面上でCH3*やCH2*がCH*よりも安定な材料を探索している.本速報では,メタンを有用な化合物へと直接変換することを可能にする革新的な触媒の開発を目指して,これまでに行った2成分合金での結果を報告する.
計算に用いる合金の構造は第一原理計算プログラムVASPによる計算データベースAFLOW [2]から取得した.CASTEPを用いて主要な表面における表面エネルギーを計算し,その中で最安定な表面をその後の計算に利用した.CH3*およびCH*吸着状態の構造最適化にはVASPを用い,汎関数はGGA-PBE,擬ポテンシャルはPAWの条件で行った.合金表面上におけるCH3*およびCH*の吸着エネルギーを計算し,その差をとることでCH*に対するCH3*表面の安定性を評価した.
はじめに各種金属表面上でのメタンのC–H開裂の活性化エネルギーと反応熱を文献調査や新たにDFT計算を行うことで収集した.これと各種金属の物性値との相関を見積もったところ,凝集エネルギーと強く相関していることが判明した.Figure 2にHibbittsとNeurockが報告したメタンの初めのC–H開裂の活性化エネルギーと反応熱を[3],9種類の金属の凝集エネルギーに対してプロットしたグラフを示す.凝集エネルギーが高い金属ほど,活性化エネルギーや反応熱が低下することがわかる.この結果は,凝集エネルギーが高い金属ほど表面エネルギーが高く,表面が不安定なのでメタンが開裂しやすいためと解釈できる.凝集エネルギーが高すぎる金属は表面があまりにも不安定であるため,触媒として利用できない.また,凝集エネルギーが低すぎる金属は強固なメタンのC–H結合を開裂させるだけの反応性を示さないと予想できる.メタンの水蒸気改質に有効なRu, Rh, Ni, Pdは4∼7 eV/atomの範囲の凝集エネルギーを有している.本研究では,この範囲に安定性と反応性のバランスの良い材料が位置していると期待し,触媒探索を行った.

Correlation between activation energy and heat of reaction for the first C–H bond cleavage of methane and cohesive energy of pure metals. Data taken from ref. 3.
本研究では,比較的に計算しやすく,未開拓な材料が多い2成分合金に着目した.Table 1にAFLOWに登録されている337種類の合金について,最安定な構造について計算した凝集エネルギーの一部を示した.これらの合金のうち凝集エネルギーが4∼7 eV/atomの範囲の190種類について,最安定な表面をDFT計算により決定し,CH3*とCH*のエネルギー差を評価している.
| ID | AnBm | n | m | Ecoha |
| 1 | OsTa | 10 | 20 | 8.73 |
| 2 | IrTa | 18 | 6 | 8.48 |
| ・ | ・ | ・ | ・ | ・ |
| 336 | HgMg | 4 | 4 | 1.11 |
| 337 | CdHg | 2 | 1 | 0.56 |
aCohesive energy (eV/atom)
これまでに26種の合金について計算が完了している(Figure 3).予想どおり,CH*が安定な合金が多いが,6種の合金についてはCH3*の方が安定であり,メタンの有用化合物への直接変換の可能性を見出した.現在,実験グループと実験的な検証を計画している.このように,表面エネルギーに比べ算出が容易な凝集エネルギーに基づいた網羅的な計算により,効率的な触媒探索が可能であることが示唆された.

Energy difference between CH* and CH3* on the most stable surface of 26 binary alloys.
本研究はCREST「多様な天然炭素資源の活用に資する革新的触媒と創出技術」の支援を受けて実施された.