Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
低バンドギャップ高分子設計を目指したキノイド性指標の評価
大槻 恒太林 慶浩川内 進
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電子付録

2017 年 16 巻 5 号 p. 123-125

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Abstract

In this article, a new index was developed for predicting the band gap of π-conjugated polymers based on isodesmic reactions between a dimethylated monomer and an oligo-acetylene. The index can be uniquely defined for hetero-cyclic and poly-cyclic monomers. The index correlated well with the calculated band gap of polymers. In addition, it shows that band gap can be controlled by copolymerization using the index based on only monomer information without calculations of polymers.

1 研究背景と目的

高分子半導体の性能はそのバンドギャップに強く依存する.低バンドギャップ高分子の設計指針の一つにAromatic-Quinoid Approachが提案されている [1,2].これは,導電性高分子の構造には,Figure 1に示す芳香族型とキノイド型が存在することによっている.また,この設計指針は,結合交替が小さいほど低いバンドギャップを示すことが知られているため,モノマーユニットが芳香族型とキノイド型の中間的な構造を持つ高分子を目指すものと考えられる.

Figure 1.

 Aromatic and quinoidal form of a conducting polymer.

本研究では,分子構造そのものではなく,モノマーのイソデスミック反応を用いたバンドギャップ予測指標を提案する.このような指標は,結合交替の構造に基づく評価が難しかった複素環を含んだ高分子や多環の高分子に対しても一意に決めることができる.また,この指標を共重合体のバンドギャップ予測に適用することができれば,低バンドギャップを発現するために最適なモノマーの組み合わせを選ぶことも可能となる.

2 計算方法

バンドギャップ予測の指標としてFigure 2に示すイソデスミック反応のエネルギー変化∆Eを考え,これをキノイド化安定エネルギー(QSE)と定義した.QSEが正の値であれば, 高分子化したときに芳香族型構造をとり,負の値であればキノイド型構造をとることを示している.量子化学計算にはGaussian 09 [3]を利用し,QSEの計算にはUωB97X-D/6-311G (d,p)レベル,高分子のバンドギャップの計算にはB3LYP/6-31G (d,p)レベルを用いた.オリゴアセチレンにはn = 8を用いた.詳細は電子付録を参照.

Figure 2.

 Isodesmic reaction of a dimethylated monomer with an oligo-acethylene.

3 結果と考察

様々なホモポリマーのバンドギャップの計算値を,QSEに対してプロットしたものをFigure 3に示す.QSE = 0付近でバンドギャップは最低となった.QSE = 0の状態は芳香族型とキノイド型の中間的な構造であることを示している.すなわち,QSE = 0付近では結合交替が小さくなり低バンドギャップとなったと考えられる.

Figure 3.

 Correlation between QSE and a band gap of homopolymers.

QSEとホモポリマーのバンドギャップの関係を単環の高分子と多環の高分子を分けてプロットしたところ,多環の高分子のほうが同程度のQSEでもより低いバンドギャップとなった.さらに,単環の高分子と多環の高分子を分けて|QSE|を用いた回帰式を作成した.これをTable 1に示す.単環の高分子と多環の高分子で|QSE|の係数が異なることからQSEにはサイズ効果があることが示唆された.

Table 1.  Linear regression models using the formula of Band Gap ~ |QSE|
Dataset R2 Standard Error [eV] 95% Confidence Interval
Coefficient [eV mol/kcal] Intercept [eV]
28 monocyclic homopolymers 0.873 0.335 0.0965 ± 0.00722 1.23 ± 0.109
248 polycyclic homopolymers 0.577 0.501 0.0515 ± 0.00281 1.23 ± 0.0594

そこで,モノマーのπ電子数に基づくサイズ効果の因子Aを用いて補正したQSE (QSESC)を次のように定義した.   

QSE SC  = QSE A

4通りの補正因子Aの候補を検証した結果,最終的にAはモノマーに含まれる全π電子数の平方根に決定した(電子付録を参照).

Figure 4に様々なホモポリマーのバンドギャップの計算値をQSESCに対してプロットした.さらに,|QSESC|を用いた回帰式を作成した.これをTable 2に示す.単環の高分子と多環の高分子を分けたいずれの回帰式においても|QSESC|の係数が同程度であった.また,Table 3にすべてのホモポリマーを用いた回帰式の詳細を示す.|QSE|を用いた場合と比較して,|QSESC|を用いることで決定係数,標準誤差ともに改善された.このことから,QSEからバンドギャップを予測するにはサイズ補正が重要であることが分かった.

Figure 4.

 Correlation between size-corrected QSE (QSESC) and a band gap of homopolymers.

Table 2.  Linear regression models using the formula of Band Gap ~ |QSESC|.
Dataset R2 Standard Error [eV] 95% Confidence Interval
Coefficient [eV mol/kcal] Intercept [eV]
28 monocyclic homopolymers 0.866 0.345 0.236 ± 0.0182 1.20 ± 0.115
248 polycyclic homopolymers 0.696 0.454 0.209 ± 0.00879 1.12 ± 0.0511
Table 3.  Linear regression models using the formula of Band Gap ~ |QSE| and Band Gap ~ |QSESC|.
Descriptor R2 Standard Error [eV] 95% Confidence Interval
Coefficient [eV mol/kcal] Intercept [eV]
|QSE| 0.551 0.529 0.0521 ± 0.00284 1.27 ± 0.0585
|QSESC| 0.714 0.422 0.213 ± 0.00814 1.12 ± 0.0477

さらに,QSESCを交互共重合体へ拡張することを試みた. 交互共重合体のQSE (QSECO)は,構成するモノマーのQSESCの平均値であると仮定した.Figure 5に様々な交互共重合体のバンドギャップの計算値をQSECOに対してプロットした.QSECOは,交互共重合体に関してもバンドギャップの計算値との間によい相関を有していた.このことから交互共重合体のバンドギャップは,構成するモノマーのQSESCから見積もることが可能である.

Figure 5.

 Correlation between size-corrected QSE and a band gap of alternate copolymers.

また,Figure 5から,交互共重合体においてはQSECOが2付近で最も低バンドギャップとなった.この結果から,低バンドギャップの交互共重合体を設計するには,QSECOが2付近になるようモノマーを組み合わせるという,低バンドギャップ高分子設計のための指針が得られた.

Acknowledgment

本論文の計算は東京工業大学のTSUBAME2.5および自然科学研究機構計算科学研究センターのスーパーコンピュータを用いて行った.また,研究費を補助していただいたJST CREST (JPMJCR1522)及び,JSPS 科研費 (17K17720) に深謝する. 電子付録にオリゴアセチレンの重合度に関する詳細と,サイズ因子A決定方法を記載した.

参考文献
 
© 2018 日本コンピュータ化学会
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