2017 Volume 16 Issue 5 Pages 155-156
We carried out electronic structure calculations on molecules having scent, and evaluated their electronic descriptors. Based on the calculated descriptors, a correlation between electronic similarities and scents of the molecules was investigated. Through this analysis, we found that a good correlation exists between these characteristics.
人は,香りを持つ分子がその受容体に結合することによってcAMP (cyclic adenosine monophosphate)が産生されてチャネルが開口し,受容電位が発生して香りを感じる.香りを持つ分子は揮発性で500未満程度の分子量のものと言われており,地球上に膨大に存在している.このため人の鼻は数十万,場合によっては数百万の香りを嗅ぎ分けるとも言われている [1].本研究では,香料としての有用性が高いと考えられる植物由来の分子に注目し,それらの電子状態に関連する記述子に基づく分類と個々の分子の香りの種類との相関関係を調べた.
密度汎関数(DFT)法を用いて電子状態計算を行った.ここで,交換相関項にはM06-2X汎関数,基底関数には6-31G (d,p)を用いた.電子励起状態は時間依存密度汎関数法(TDDFT)により求めた.これらの計算はGaussian09プログラム [2]を用いて行った.
次に電子状態計算の結果を用いて,分子の類似度計算を行った.これは,数値で算出される記述子は指数関数による評価で,スペクトルで出される記述子は重ね合わせによる評価で類似度を算出する当研究室のプログラムを用いた [3].類似性を評価するために,HOMO-LUMO間のエネルギー差,分子軌道の状態密度・IR・振動状態密度・UV/Vis・励起状態密度のスペクトルデータ,分子体積などを記述子とした.Gaussian09による分子体積計算ではMonte-Carlo積分を行うが数値にばらつきが出るため,計算を20回繰り返して平均値とった.反復回数は平均値の収束性を調べる予備計算で決定した.
香りの分類にはインターネットで提供される知識情報を利用した.特にWikipedia [4]と”The Good Scents Co. Information System” [5]の記述を活用した.様々な分子とその香りに関する記述を発見するのが容易であったため, [4] [5]の情報を参照した.
植物性由来の分子76個に関する電子状態計算を行った.一例をFigure 1に示す.これらの分子は,Wikipediaの記述によると(a)花,(b)草木,(c)ショウノウ,(d)果実,(e)ハッカの香りなどを有するものである.電子的類似度による分子の分類の際には,知識情報によるとその香りが”fresh”,”citrus”と表されるNerolを参照分子とした.
Representative molecules investigated in the present study
各電子的記述子に基づいて相対的な電子的類似度を評価し,その平均を取って類似性のランキングを行った結果をTable 1に示す.Nerolとの類似性が高い分子の香りを調べると,順に,柑橘系の草木や花の香り,バラやカモミールなど甘い花の香り,ハッカやミントなどのスッとする香り,ジャスミンやバラの様な甘い花の香り,ラズベリー,りんご,いちごなどの果物の香り,などに大まかに分類できた.従って,電子的類似度に基づくランキングが分子の香りの分類と対応する可能性が示された.
Molecule | Orbital Spectra [%] | Vibrational Spectra [%] | Electronic Spectra [%] | Molecular Volume [%] | Average [%] | |||||
HOMO | LUMO | HOMO-LUMO gap | Orb. DOS | IR | Vib. DOS | UV | Ex. State DOS | |||
Nerol | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 | 100.0 |
Sandalore | 100.0 | 83.1 | 96.5 | 88.1 | 63.2 | 83.7 | 69.7 | 86.4 | 75.5 | 82.9 |
Geraniol | 99.2 | 83.1 | 96.0 | 91.0 | 77.1 | 89.1 | 24.5 | 85.0 | 98.1 | 82.6 |
β-Santalol | 97.4 | 92.2 | 99.2 | 88.6 | 53.0 | 77.8 | 87.2 | 69.8 | 76.4 | 82.4 |
Linalool | 97.9 | 87.5 | 99.5 | 88.7 | 59.8 | 84.4 | 25.3 | 85.0 | 94.9 | 80.3 |
α-Santalol | 97.7 | 90.7 | 96.4 | 87.8 | 71.2 | 78.6 | 39.2 | 80.9 | 78.2 | 80.1 |
Grapefruit mercaptan | 97.5 | 92.5 | 96.6 | 87.7 | 58.4 | 76.9 | 26.8 | 80.9 | 99.3 | 79.6 |
(E)-Nerolidol | 99.8 | 96.8 | 99.6 | 90.4 | 61.5 | 89.0 | 40.4 | 59.2 | 72.6 | 78.8 |
Citronellol | 98.5 | 81.2 | 94.9 | 88.5 | 72.9 | 87.4 | 14.6 | 59.8 | 98.4 | 77.4 |
Farnesol | 98.4 | 89.1 | 99.4 | 89.5 | 62.5 | 88.9 | 30.4 | 62.8 | 72.5 | 77.1 |
さらに計算による分類可能性を検証する目的で,参照分子を「フローラル,ウッディな香り」を示すとされるbenzyl benzoate [6]とした検討も行った.電子的類似度を評価してランキングを行った結果,上位10分子中の6分子の香りが”floral”,”woody”という単語,またはそれと同義ととれる語("feijoa tree”など)で表現されており,benzyl benzoateの香りの表現との共通性が高い.従って,電子的類似度に基づくランキングと分子の香りにはよい相関があることが確認された.
本研究は文科省科研費新学術領域研究「π造形科学」(課題番号26102015)の支援を受けた.