2018 年 17 巻 5 号 p. 235-236
Natural rubber is an excellent material in elasticity and abrasion resistance. However, the detailed structure and the reason for excellent physical properties of natural rubber are still unclear. We aimed to conduct a conformational search and structural analysis using computational chemistry and to elucidate the biosynthetic process of natural rubber. From the calculation results, as long as the catalyst (enzyme) required for each stage of the biosynthesis process exists, it turned out that the biosynthesis of natural rubber proceeded spontaneously.
天然ゴムは優れた物性を有し, 最新の技術を用いても同等の物性を示す合成ゴムを作ることは困難である.
本学の河原等は, その生合成機構を明らかにしようとしているが, 構造や優れた物性の理由はほとんどが不明である. 同著者は末端のリン酸基が負の極性基として機能し静電相互作用を及ぼすことで, 丸く集まった糸くず型の安定配座を成すこと等を見出した [1].
本研究では, 現在提案されている生合成機構を基にモデルを作成し, 計算化学を用いた解析を行い, 天然ゴムの生合成過程解析を目指すことを目的とした.
プログラムパッケージにはWinmostarV7.009を使用した.
分子力学法(MM)では配座探索法(CONFLEX 法)を用い,
力場パラメータとしてMMFF94Sを使用した. 半経験的分子軌道法(MO)においてはMOPAC
2016, ハミルトニアンPM7を選択した. ギブズエネルギーの算出には熱力学式
を用いた. また, 溶媒効果を表現するために,
連続誘電体モデル[ EPS=78.3, RSOLV=1.0 ] を仮定(COSMO法)した.
モデルとして, 本学の河原等 [2, 3]により解明されている生合成機構[Figure 1]を基に①~⑩を作成し, 計算を行った. ⑤~⑩に関してはn (cis-1,4-polyisoprene数) =1, 2, 3, 5, 7, 10 とした.
The biosynthesis mechanism of natural rubber currently proposed
それぞれのモデルにおいて, 分子力学法により得られた安定配座を用いて,
分子軌道法により熱力学的諸量 を求めた結果, [Figure 2]
のような値が得られた.
values in each calculation
model
また, 実際の化学反応を考慮し, 各段階 2 ∼10 [Figure 3]
における系全体の を求めた結果, [Figure 4]
のような相関性が見られた. 計算温度は298Kとした.
Method of determining the stage model
values in each stage
model
さらに, 分子軌道法により, それぞれのモデルについて電荷を算出すると,
リン酸基()部分及びポリイソプレン部分において[Figure
5]のような値が得られた. そして, リン酸基部分の電荷の変化をまとめると,
[Figure
6] のような結果が得られた.
The charges of the phosphate group part (solid frame) and polyisoprene part (dot frame)
The charges of the phosphate group part in each calculation model
1. [Figure
2∼4] の結果より, 各段階における系全体の 値は,
段階が進むにつれて減少の傾向を示すことが判明した. この結果から,
必要とされる触媒(酵素)さえあれば生合成は自発的に進行すると考えられる.
2. [Figure 5] の結果より, リン酸基部分は負, ポリイソプレン部分は正の電荷を帯びることが判明した. [Figure 6] の結果とから, これは天然ゴムの生合成過程における初期段階, つまりモノマーから, ポリマーへと成長する中で一貫した傾向であると考えられる.
各段階ごとに必要とされる触媒(酵素)が 存在する限り, 天然ゴムの生合成は自発的に進む.