Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Theoretical Study on the Relation between the Frontier Orbital and the Conductance in Aromatic Single-Molecular Parallel Circuits
Kazuki OKAZAWAYuta TSUJIKazunari YOSHIZAWA
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2019 Volume 18 Issue 5 Pages 227-229

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Abstract

According to the current superposition law in nanoscale, the conductance gets more than doubled when the number of paths is doubled. The superposition law can be applied to the molecular graph, which is a discrete mathematical expression for a structure consisting of nodes and edges. We previously revealed that the aromatic parallel circuit i.e. benzene molecule breaks the superposition law. In this paper, we show that [4n+2] annulenes also break the current superposition law from the viewpoint of orbital interaction between two fragments in the parallel circuit.

1 はじめに

π共役系単分子は,固体や高分子の電気伝導では観測されない特異な電子輸送能力を有する.この性質は,実験及び理論的に証明された.これらの性質を用いて, AviramとRatnerは整流器としての性質を持つ分子構造を提案した [1].以後,多くの研究により,様々な電子部品に対応する分子構造が提案されてきた.実際に電子部品を用いて分子デバイスを開発するには,単分子回路の法則を明らかにする必要がある.

単純な系である並列回路に注目する.マクロスケールの並列回路において,伝導度(抵抗の逆数)は以下の式で表される.   

g=g1+g2(1)

ここで,giは各抵抗における伝導度である. Magogaらは,ナノスケールにおける並列回路の伝導度がマクロスケールの値とは異なり,以下の式となることを発見した [2].   

g=g1+g2+2g1g2(2)
  
gg1+g2+2g1g2(3)

ここで,2g1g2は波動関数の重ね合わせの項である.式(2)は,強め合う量子干渉で,2つの経路の波動関数が同位相の場合に生じる.式(3)は,弱め合う量子干渉で,2つの経路の波動関数の位相が逆位相の時に生じる.経路の長さが同じ時,波動関数の位相は一致すると考えられるため,同じ長さの並列回路では強め合う量子干渉が生じる.

我々は,単分子並列回路に適用すると,芳香族性によって式(2)が成り立たなくなることを非平衡グリーン関数法と量子化学計算を組み合わせた方法により明らかにしたことを報告している [3].本稿では,グラフ理論及びHückel法を用いて4n+2π電子系並列回路の伝導度について議論する.

2 分子軌道と伝導度の関係

金属–分子–金属の系において,伝導度gは,一方の電極から他方の電極へのFermi準位における電子透過確率T(EF)に比例する [4].そして,電子透過確率は,ゼロ次のGreen関数Grs(0)(EF)の2乗の絶対値に比例する.   

g=2e2hT(EF)2e2hγLγR|Grs(0)(EF)|2(4)

ここで,γL (R)は分子–電極間のカップリングである.ゼロ次のGreen関数は,以下の式で表される.   

Grs(0)(EF)=kCrkCsk*EFεk±iη(5)

ここで,Cr(s)kk番目の分子軌道の軌道係数,εkk番目の分子軌道の軌道エネルギーである.式(5)の分母は,エネルギー的にFermi準位に近い軌道が最も小さくなるため,ゼロ次のGreen関数はFermi準位に最も近い軌道,すなわちHOMOとLUMOの寄与が最大になる.よって,次のような関係式で示すことができる [5].   

Grs(0)(EF)Cr,HOMOCs,HOMOEFεHOMO±iη+Cr,LUMOCs,LUMOEFεLUMO±iη(6)

式(6)より単分子の伝導度の傾向は,フロンティア軌道のエネルギー,すなわちHOMO–LUMOギャップと軌道係数からわかる.このことを電気伝導に関するオービタルルールと呼ぶ.

3 4n+2π電子芳香族並列回路の伝導度

単一分子の導電性は,π共役ネットワークによるものであるため,1つのπ軌道をノードとしたグラフとして表すことができる.Figure 1では,ベンゼンをグラフ表示している.

Figure 1.

 A graph representation corresponding to benzene molecule.

単分子並列回路は,単一回路にπ共役分子が付加したものであると考えることができる.例えば,ブタジエンの単一回路にエチレンが付加するとベンゼンの並列回路となる.著者らは,2つの経路が等価である場合,式(2)が満たされない,すなわち並列回路の伝導度が単一回路の伝導度よりも低い場合があることを明らかにした(Figure 2).さらに,単一回路のフラグメントとそれ以外のフラグメントの軌道相互作用が,鏡映対称性より,非芳香族並列回路の場合はHOMO–HOMO及びLUMO–LUMOの相互作用でHOMO–LUMOギャップが小さくなり,芳香族並列回路では2つのHOMO–LUMO相互作用により,HOMO–LUMOギャップが大きくなることを明らかにした [3].

Figure 2.

 Transmission spectra for (a) non-aromatic parallel circuit and (b) aromatic parallel circuit. The spectra were calculated using the nonequilibrium Green's function combined with the Hückel MO method (NEGF–HMO). The green lines denote the transmission probability for the single circuit and the red lines denote the transmission probability for the parallel circuit.

本稿では,グラフ理論を用いることで,さらに一般化した4n+2π電子系でHOMO–LUMO相互作用になることを示す.1つのノードは1つのπ電子を持っているため,ノード数が4n+2個の並列回路を考える(Figure 3).Figure 3において,黒丸は電極と接触しているノードである.Figure 3の並列回路のグラフは単一回路の部分グラフ(G1)とそれ以外の部分グラフ(G2)に分けることができる.各部分グラフのノード数V(Gi)は以下のようになる.   

V(G1)=2n+2, V(G2)=2n (n=1,2,)
(7)

Figure 3.

 Molecular graph for an aromatic ring and its two fragments. Filled nodes denote locations at which the electrode is attached.

軌道が縮退していない系では,HOMOは軌道エネルギーの低い方から12V(Gi)番目,LUMOは12V(Gi)+1番目に位置する.すなわち,G1のHOMOはn+1番目,LUMOはn+2番目に,G2のHOMOはn番目,LUMOはn+1番目に位置する.π共役直鎖分子の鏡映対称性は,エネルギーの低い順から奇数番目の軌道は全対称(S),偶数番目の軌道は反対称(A)となり,同じ対称性の時に相互作用できるため,G1のHOMOはG2のLUMOと,G1のLUMOはG2のHOMOと相互作用することができる.よって,芳香族並列回路はHOMO–LUMO相互作用となりHOMO–LUMOギャップが大きくなるため,式(2)を満たさないことがわかる.実際に,Hückel法を用いてベンゼンの軌道相互作用に注目すると,HOMO–LUMO相互作用になっていることがわかる(Figure 4).

Figure 4.

 Orbital interaction diagram of benzene partitioned into butadiene and ethylene parts.

4 まとめ

本稿では,4n+2個のπ電子を持つ並列回路の伝導度の傾向についてHückel法及び電気伝導に関するオービタルルールを用いて議論した.その結果,4n+2個のπ電子環状分子はHOMO–LUMO相互作用により伝導度が下がることを明らかにした.

謝辞

本研究は,日本学術振興会(JSPS)の科研費(JP17K14440,JP17H03117,JP18H04488,及びJP19H04700)の助成によって実施された.

参考文献
 
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