Journal of Computer Chemistry, Japan
Online ISSN : 1347-3824
Print ISSN : 1347-1767
ISSN-L : 1347-1767
Letters (Selected Paper)
Diffusion and Dissociation of Water on Forsterite Surface
Ayane KUBOJunya NISHIZAWATomoko IKEDA-FUKAZAWA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 18 Issue 5 Pages 202-204

Details
Abstract

To investigate the effects of forsterite structure on processes of H2O decomposition and proton diffusion, we performed molecular dynamics calculations on forsterites in glassy and crystalline states. The result shows that the decomposition rate of H2O on forsterite in the glassy state is higher than that in crystalline state in a temperature range of 200 to 400 K. Furthermore, the decomposed proton permeates into the internal part of glassy forsterite through hopping, whereas no permeation was observed for the crystalline state. These results suggest that the glassy structure of forsterite is an important factor for chemical evolution processes in interstellar spaces.

1 はじめに

主要な珪酸塩鉱物の一つであるフォルステライト (Mg2SiO4) は,地球上では主に結晶として存在するが,星間分子雲ではガラス状態をとることが知られている [1, 2].フォルステライトは分子合成の基板として機能するため,結晶およびガラス状態の表面における分子吸着・拡散現象は,分子進化のメカニズムを解明する上での重要な素過程の一つと考えられている.

フォルステライトガラスの生成については,Tangeman ら [3] や Takahashi ら [4] によって報告されている.しかしながら,融点が高く,溶融急冷法を用いたガラスの生成が困難であるため,フォルステライトガラスに関する実験研究の報告例は少なく,その構造や物性には不明な点が多く残されている.

我々は,ミクロな視点からフォルステライトガラスの構造や物性を明らかにすることを目的として,分子動力学 (MD) 法を用いた研究を進めている.Ikeda-Fukazawa [5] は,ガラス構造に対する温度履歴の効果を調べるために MD 計算を行い,液体を 1000 K 以下に急冷することにより生成したフォルステライトガラスは,急冷前の液体構造を反映した非平衡の構造であることを明らかにした.また Nishizawa ら [6] は,フォルステライトガラスには,密度が低く,原子の熱振動の振幅が大きい表面層が存在することを示した.さらにKubo ら [7] は,水分子の吸着に伴い,フォルステライトガラス表面層の分子の熱振動の振幅が減少することを明らかにした.

本研究では,MD 計算により,ガラス状態および結晶状態のフォルステライト表面における吸着水分子の分解過程を解析した.

2 計算手法

MD 計算は,MXDORTO プログラム [8] を使用し,二体中心力項と三体力項からなる原子間ポテンシャルモデルを用いて行った [9].距離 rij の関係にある原子 i, j 間の二体中心力項 uij の計算には,静電力,分子間力,近接反発力,共有結合力からなる次式を用いた.   

uij(rij)=14πε0zizje2rij+f0(bi+bj)exp(ai+ajrijbi+bj)cicjrij6+D1ijexp(β1ijrij)+D2ijexp(β2ijrij)+D3ijexp{β3ij(rijrij*)2}(1)
原子 hij 間の三体力項の計算には次式を用いた.   
uhij(θhij, rig)=fk[cos{2{θhijθ0}1}]k1k2(2)
  
ki=1exp{gr(rig rm)+1}(3)
ただし,rigg についてはhまたはjとする.また, rm および gr については,三体を構成する原子種の組み合わせによって決まる結合角を制御するためのパラメーターである.各ポテンシャルのパラメーターには,文献値を用いた [5, 10].

計算には,二次元周期境界条件により表面を構築した1176 個の Mg2SiO4 からなるフォルステライトを用いた.まず,3000 K のフォルステライト液体を 2 K/fs の速度で 10 K まで冷却し,フォルステライトガラスを生成した.この表面に水の単分子膜を生成するため,まず水分子 1580 個からなるアモルファス氷膜を吸着させた.アモルファス氷については,液体状態の水を 290 K から 10 K まで急冷することにより生成した.氷膜の吸着後,フォルステライトガラスの Mg 原子と共有結合を形成していない水分子をすべて除去し,水の単分子膜のみを残した.この系について,10 K から1000 Kまで昇温し,構造を解析した.計算は,二次元NTP アンサンブルを適用し,圧力 0.1 MPa,計算間隔0.5 fs/stepの条件で行った.原子の運動および静電相互作用の計算には,Verlet のアルゴリズム [11] および Ewald の方法 [12] を用いた.比較のため,フォルステライト結晶についても同様の計算を行った.

3 結果・考察

計算の結果,10 Kでフォルステライトガラス表面に水分子が吸着した場合,水分子のO原子とフォルステライト表面の Mg 原子との間に共有結合が形成され,MgOxHyの構造となることが明らかになった.さらに温度200 K 以上では,水分子が分解してプロトン (水素イオン H+) が解離することが明らかとなった.この分解現象は,フォルステライト結晶表面の場合には300 K 以上の温度で生じた.解離したプロトンは周囲の原子と結合し,MgOxHy+1+または SiO4Hz の構造となった.プロトンが解離した水分子については,OH またはMgOxHy–1 の構造となった.

水分子の平衡分解率は,ガラス状態,結晶状態ともに温度上昇に伴って増加し,500 K 以上の温度でほぼ1に達した.200 K から 400 Kの温度域において,ガラス表面に吸着した水分子の平衡分解率が,結晶状態に比べて高くなった.これは表面層の原子の熱振動の振幅の違いに起因したものであると考えられる [6].

さらに,水分子の分解により生じたプロトンの軌跡を解析した結果,プロトンは (i) 表面拡散および (ii) 浸透によりフォルステライト内を移動することが明らかになった.Figure 1 に,浸透に伴うプロトンのジャンプ頻度を示す.ジャンプについては,共有結合を形成する最近接酸素原子が変化した時に生じたと定義し,その頻度を求めた.Figure 1より,ガラス状態におけるプロトンのジャンプ頻度は温度上昇に伴って増加することが明らかになった.一方,結晶状態の場合,本研究で行った計算時間内(5.05 ns)ではプロトンの移動は確認できなかった.

Figure 1.

 Jump frequency of H+ on forsterite surface. The solid and dotted lines show the data of glass and crystal, respectively.

4 結論

本研究の成果として,フォルステライト表面における水分子の分解およびプロトン拡散のメカニズムが,結晶状態とガラス状態とで異なることが明らかになった.このことから,フォルステライトの触媒機能を理解する上で,フォルステライトの構造の影響を明らかにすることが重要であると考えられる.

謝辞

本研究は MEXT 科研費 25108004 の助成を受けたものです.

参考文献
 
© 2019 Society of Computer Chemistry, Japan
feedback
Top