Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Multifractal Analysis of Microphase Separated Structure in Block Copolymers
Mariko I. ITOSadato YAMANAKATakeshi AOYAGITakaaki OHNISHI
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2019 Volume 18 Issue 5 Pages 214-216

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Abstract

In this study, we attempted to quantify the shape of various metastable morphologies of microphase separation in block copolymers that can be observed in a computer simulation under the same condition as that for double gyroid (stable state). For the quantification, we used multifractal analysis, which is a tool to evaluate the shape having heterogeneous density inside it. Our analysis showed that the indicators relating to the multifractal analysis of metastable structures are distributed far from that of double gyroid.

1 研究目的

ブロック共重合体は,モノマー間の相互作用の大きさや平均体積分率によって,様々なミクロ相分離構造をとる [1].これらの構造は,自己無撞着場理論に基づくシミュレーションにより調べることができる [2].ABAトリブロック共重合体のミクロ相分離の場合,安定構造の一つにダブルジャイロイドが知られている(Figure 1 (a)).シミュレーションにおいては,安定構造がダブルジャイロイドとなるような条件のもとであっても,初期状態における空間上の体積分率分布のゆらぎにより様々な形状の準安定構造が形成される(Figure 1 (b-d)).本研究では,これらの準安定構造の形状を数値化し,多様な準安定構造の形状の差異を捉えることを目的とした.そのために,フラクタル次元の観点から形状を評価する手法であるマルチフラクタル解析を行った.フラクタル次元とは,直感的な次元の概念を拡張させたものである.例えば直線や平面のフラクタル次元は従来の次元と同じく1次元,2次元である.一方,正三角形から各辺の中点を結ぶ正三角形を取り除く操作を無限回繰り返してできるシェルピンスキー・ガスケットのフラクタル次元は約1.58次元となる.マルチフラクタル解析では,局所的なフラクタル次元(特異性の強さ)に対して,その局所的なフラクタル次元をもつ箇所全体のフラクタル次元(大域スペクトル)を対応させることで,非均一な空間構造の特徴づけをすることができる [3].

Figure 1.

 (a) Double gyroid. (b)-(d) Examples of metastable structure.

2 方法

ABA対称トリブロック共重合体について,自己無撞着場理論に基づくシミュレーションで得られた,ダブルジャイロイドおよびその準安定構造(データ数100)の形状を調べた.シミュレーションにより得られるデータは,64×64×64の格子点上の体積分率データである.ここでは,ダブルジャイロイドの1単位が2×2×2回繰り返されており,周期境界条件が適用されている(Figure 1 (a))).

スケールr = 16 ∼ 64に対し,構造を1辺rの長さの立方体で区切る.この立方体中の体積分率の和と,構造全体の体積分率の和との比を,その立方体における確率測度として定義する.マルチフラクタル性が見られるスケールrの範囲を検討し,そのスケールのもとで,ボックスカウンティング法による一般化次元の導出を介して,大域スペクトルを導出した [4,5,6,7,8].

3 結果と考察

スケールr = 16 ∼ 64の範囲でマルチフラクタル性が確認でき,この範囲においてFigure 2のような,特異性の強さαに対する大域スペクトルf(α)が得られた.ダブルジャイロイドの大域スペクトルはほぼ一点となり,準安定構造については互いに異なる大域スペクトルが得られた.Figure 3には,大域スペクトルの特徴量としてしばしば用いられる,特異性の強さαの最大値と最小値との差αmax−αminf(αmax) f(αmin)を示す [3, 7].αmax−αminは局所的なフラクタル次元の分布の幅を表す.f(αmax) f(αmin)は,局所的なフラクタル次元の大きな箇所において大域スペクトルの階層性が大きいのか(f(αmax) f(αmin)<0),その逆か(f(αmax) f(αmin)>0)を示す.準安定構造の大域スペクトルに関するこれらの特徴量は,安定構造であるダブルジャイロイドからは離れたところでばらついていることがわかった.

Figure 2.

 Multifractal spectrums of double gyroid and the metastable structures. Each color of spectrum stands for each structure.

Figure 3.

f(αmax) f(αmin) versus αmax−αmin of double gyroid (red circle) and the metastable structures (blue circles).

フラクタル次元を導出する際のスケールrはマルチフラクタル解析の結果に大きな影響を与えるため(Figure 4),合理的なスケール選定が必要だと考えられる.本研究ではr = 16 ∼ 64の範囲で解析をしたが,その理由の一つ目は,このスケールにおいてマルチフラクタル性が確認できるためである.マルチフラクタル性とは,対象物を被覆する各立方体における確率測度のq乗の和が立方体の辺の長さrに対してrの冪乗のオーダーで増加/減少する性質である.また二つ目の理由は,このスケールにおいてダブルジャイロイドの大域スペクトルがほぼ1点となっていることである(Figure 2).このことは,このスケールで見ると,基準となるダブルジャイロイドが空間的に均一なフラクタル次元をもっていること(シングルフラクタル)を示している.r < 16となるrを解析の範囲に含むと,このような性質は見られない.

Figure 4.

 An example showing how the choice of scale r affects the fractal dimension derivation. The fractal dimension of the colored area is 2 (1) when we observe it with the scale lower (larger) than 4.

今後は,これらのマルチフラクタル解析関連の特徴量と,各構造の物性(力学応答等)に関するデータを比較する.マルチフラクタル解析により抽出した幾何学的構造に関する特徴量の応用可能性について検討する.

謝辞

本研究はJSPS科研費JP17H06468及びJP17H06464の助成を受けたものです.

参考文献
 
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