Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Texture Analysis of Water-Hydrated Montmorillonite Clay by Coarse-Grained Molecular Dynamics Simulation
Kazushi KIMOTOKatsuyuki KAWAMURAHitoshi MAKINO
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2020 Volume 19 Issue 2 Pages 46-49

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Abstract

This study proposes a 2D coarse-grained molecular dynamics (CGMD) method for the compaction simulation of montmorillonite clay.In the CGMD method, a unit structure of a water-hydrated clay molecule is coarse-grained into a particle.Thus, the deformable molecules are modeled as a set of linearly connected coarse-grained particles.As the inter-particle forces, the intra-molecular bonding and inter-molecular van der Waals forces are considered.For simplicity, the intra-molecular bonding is modeled as a linear harmonic oscillator, while the Lenard-Jones potential is used to define the van der Waals force field. With this model, the mechanical compaction of moistured montmorillonite is numerically simulated to find that 4-6 considerably deformed molecules are layered as a result of the compaction.It is also found that the simulated XRD pattern agrees with the experiment in terms of the peak angle.

1 背景,目的

モンモリロナイトはSiO4四面体とAl (OH)6八面体が2:1で積層した層状ケイ酸塩鉱物の一種で,分子同士が陽イオンを介在して積層構造を作ることが知られている.積層したモンモリロナイト分子の層間には,陽イオンに水和する形で水分が取り込まれ,吸湿によって膨潤する.モンモリロナイト分子は,厚さが約1nm,幅が最大で1μm程度の扁平な分子で,圧縮成形して密に固めることで微細かつ複雑な間隙構造を持つ,透水係数や物質拡散係数が非常に小さな多孔質材となる.このことから,放射性廃棄物の地層処分では,廃棄体から漏洩した放射性核種の移動を抑制することを目的として,モンモリロナイトを主成分とする粘土であるベントナイトを緩衝材(バリア材)として使用することが計画されている.ベントナイトを緩衝材として使用するにあたり,低い透水性や物質拡散特性といったマクロ物性が長期的にどのように保たれるかを調べることが求められる.そのためには,湿潤環境下でモンモリロナイト分子がどのように積層し,含水した多孔質構造を作るかを調べることが重要である.しかしながら,モンモリロナイト分子は非常に微細な鉱物結晶であることから,組織構造を顕微鏡やX線CT等の方法で直接観察することができない.そこで本研究では,粗視化分子動力学法によって粘土の圧縮成形を模擬した数値シミュレーションを行い,粘土含水系の組織構造モデルを生成する方法を開発した.以下では,モンモリロナイト分子の粗視化モデルと数値解析方法について述べ,これまでに得られた粘土含水系の圧縮凝集に関する2次元シミュレーション結果の一例を示す.また,シミュレーションで得られた組織構造を基に算出したX線回折パターンと動径分布関数を示し,実験でも観察されるX線回折ピークが得られること,また,モンモリロナイト分子の積層数に関する定量的な見積りが与えられることを述べる.以上により,本研究で提案する一連のシミュレーション手法が,実験や観察が困難な粘土含水系のメソスケール構造を調べる上で有効なものとなりうることを示す.

2 方法

モンモリロナイトの分子構造や水和挙動は,これまで,分子動力学法(MD)を用いて詳しく調べられ,分子スケールでの物性は次第に明らかになりつつある[1].一方,組織構造のシミュレーションは,多数の分子からなる系を扱う必要があることから,全原子MDでの解析は計算負荷が高くなり困難である.そこで本研究では,2次元化したモデルでのシミュレーションを行うために,モンモリロナイト分子2:1層の厚み(1nm)を基本とし,厚み直角方向に1nmの範囲とその両面に水和した水分子を一つの粒子に粗視化してMDシミュレーションを行った.以降,この方法を粗視化分子動力学法(粗視化MD)と呼ぶ.粗視化MDでは,1次元的に連結された粗視化粒子のビーズモデルで一つのモンモリロナイト分子を表現する(Figure 1).同一分子内の粒子間には分子内力を,異なる分子に属する粒子間には分子間相互作用力を与え,粗視化粒子系の運動方程式を解くことで多数の分子の変形と運動を解析した.その際,分子内力は分子の伸縮と屈曲に関する剛性を付与する2種類の線形バネでFigure 1のように与えた.2種類のバネのバネ定数は,別途行った全原子MD計算の結果を踏まえ以下のように設定した.また,バネの自然長は,分子の自然形状が直線となるようにそれぞれ1および2nmとした.   

K 1 = 2 , 000 [ N / m ] ,   K 2 = 4 , 000 [ N / m ]   (1)

Figure 1.

 Coarse-grained MD model of montmorillonite molecules.

全原子MD計算では,一つのモンモリロナイト分子に曲げ変形を加え,そのときのポテンシャルエネルギーを近似するようにK1K2の数値を与えた.一方,分子間力はレナードジョーンズ(LJ)ポテンシャル:   

U ( x i , x j ) = 4 ε { ( σ r ) 12 ( σ r ) 6 } ,   ( r = | x i x j | , ε = 1.0 × 10 19 [ Nm ] ) (2)
で与えることとした.分子間相互作用の強さを規定するパラメータεは,2つのモンモリロナイト分子を積層させたときのポテンシャルエネルギーを全原子MDで求め,粗視化MDがその数値を近似するように与えた.これに対し,LJポテンシャルの基準距離σは分子間の接近限界を定めることから,水和水量を表現する連続変数として用いた.なお,σ=0.9[nm]は無水状態に,σ=1.2[nm]と1.5[nm]はそれぞれ一層および二層膨潤状態に相当し,σの値に上限は設けていない.また,各粗視化粒子が持つ水和水量は,モンモリロナイト分子の相対位置に応じて,層間の気泡が少ないより安定な状態となるように再配分される必要がある.そこで,σの値を次のようにして計算途上で更新した.はじめに,指定された粗視化粒子に対して別の粒子をランダムに一つ選ぶ.これらの粒子間でσ→σ±Δσとなるような水分の授受が発生したと仮定し,その結果生ずるポテンシャルエネルギー(2)の変化ΔUを計算する.ΔU < 0となる場合は,水分の授受が発生するとして粒子間のσ値を実際に変更する.この操作を一定の計算ステップ間隔で全ての粗視化粒子について行うことで,系全体がよりエネルギーの低い状態に向かうように計算を進める.このようにすることで,モンモリロナイト分子層間に小さな気泡が残ること無く自然な水分配置の組織構造を得ることができる.なお,σの変化によって大きな撃力が発生しないよう,今回の計算ではΔσ=0.03[nm]とした.

3 結果,考察

3.1 圧縮凝集挙動

Figure 2に,粘土含水系の圧縮凝集シミュレーションの一例を示す.この図は,長さの異なる80個のモンモリロナイト分子を含む領域をユニットとした2次元周期構造を用い,そのセル長を一定速度で温度300 Kにおいて等方的に圧縮したときの結果を示している.これら80の分子を構成する粗視化粒子の総数はN=3,194個で,分子の長さは平均40 nm,標準偏差10 nmの正規分布でランダムに与えた.ユニットセルのサイズは初期状態では一辺の長さが200 nm,圧縮終了時には70 nmの正方形となっている.水分量は二層膨潤状態に相当するよう,初期状態ではすべての粗視化粒子間でσ=1.5 [nm]とした.ただし,水和水の層厚は分子の長さに比べて小さく,同じスケールでの可視化が難しいことからこの図には示していない.Figure 2は,4つの時間におけるスナップショットを示し,t=0 [ns]の初期状態では,直線状のモンモリロナイト分子が互いに重なることがないようランダムに配置されている.ユニットセルの圧縮に伴い,当初セル内で均一に分散していた直線状の分子が次第に屈曲しながら分子間力によって積層する様子が見られる.t=0.6 [ns]の時点では,積層した分子間に大きな空隙ができるが,さらに圧縮を進めることで,大きな空隙は消失し,非常に密に充填された組織構造が形成されていく.圧縮を終了したt=1 [ns]では,屈曲して積層した分子同士が互いに絡み合うように配置され,基準となる積層構造単位や規則性を見出すことは難しい.なお,このときの乾燥密度はρd=1.61 [g/cm3]で,地層処分における粘土緩衝材に想定されている乾燥密度と同程度となった.

Figure 2.

 Numerically simulated compaction process of water-hydrated montmorillonite.

3.2 X線回折パターン

Figure 3に,圧縮凝集シミュレーションの結果から計算したX線回折パターンを示す.このグラフは,圧縮終了までの7つの時間ステップで得られた分子配置に対して計算したX線回折パターンで,それぞれの時間ステップにおける乾燥密度と間隙率の値を併せて示している.ここでは,電荷密度が分子内で一様に分布すると仮定して電荷分布の波数スペクトルを計算し,回折角度が2θとなる波数ベクトルのスペクトル振幅をサンプリングすることでX線回折パターンを合成した.Figure 3は,その結果を横軸に回折角度,縦軸にX線強度をとって示したもので,圧縮の進行にともない5∼6度のピークが次第に際立つ様子が現れている.また,5度付近の回折ピークは,比較的密度が低い段階から現れており,ピーク角度は圧縮の進行に伴いあまり大きく変化しないことも分かる.これは,圧縮の早い段階で積層構造が形成され,その後,積層する分子の数は大きく変化しないことを意味している.なお,計算を行った系が小さいことからFigure 3のX線回折パターンはあまり滑らかになっていない.しかしながら,ピーク角度は,二層膨潤状態にある粘土のX線回折ピークと概ね一致しており[2],この点では実験と整合する妥当な結果が得られたと言える.

Figure 3.

 X-ray diffraction patterns synthesized from the coarse-grained MD models of compacted clay.

3.3 動径分布関数

Figure 4に,圧縮凝集シミュレーション結果から求めた動径分布関数を示す.動径分布関数は,着目点から一定の距離に存在する粒子の割合を示すもので,横軸は動径距離R,縦軸は粒子数を表している.X線回折パターンと同様,ここでも,圧縮過程の7つの時間ステップにおける動径分布関数を乾燥密度,間隙率とともに示している.なお,ここでは,モンモリロナイト分子の積層状況を調べることを目的としているため,同一のモンモリロナイト分子に属する粒子は動径分布関数の評価においてカウントしていない.Figure 4の結果をみると,いずれも3つのピークが現れているが,距離0の側から数えて3つめ(R=4∼5 [nm]付近)のピークは他と比べて小さい.このことは,一つの分子に対して,上下におよそ4∼6分子程度が積層していることを意味する.また,その傾向は密度(間隙率)が小さい(大きい)ときにも一貫していることから,モンモリロナイト分子の積層は圧縮の早い段階で生じ,積層数は圧縮が進行後もほとんど変化しないことが分かる.このように積層構造の形成挙動を見ることは,今後,飽和あるいは不飽和粘土の混練や締固めのメカニズムを調べるための数値モデルを作成する際にも有用な知見を与えると考えられる.

Figure 4.

 Radial distribution functions for the coarse-grained MD models of compacted clay.

4 まとめ

本稿では,粗視化MDによって計算した水和モンモリロナイトの組織構造とそのX線回折パターンを示し,X線回折ピークは概ね実験で得られる結果に一致することを述べた.今後は,より大きな系で同様な計算を行い,実験で得たX線回折パターンと比較すること,3次元系でのシミュレーションを行うこと等が課題となる.

謝辞

本研究は,経済産業省資源エネルギー庁の委託事業「平成29年度地層処分技術調査等事業(処分システム評価確証技術開発)」および「平成30∼31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(ニアフィールドシステム評価確証技術開発)」の成果の一部である.ここに記して謝意を表する.

参考文献
 
© 2020 Society of Computer Chemistry, Japan
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