Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
ミクロ相分離構造の最大連結成分と自由エネルギー
川口 裕靖伊藤 真利子山中 貞人青柳 岳司大西 立顕
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2020 年 19 巻 4 号 p. 136-138

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Abstract

In this study, we attempted to quantify the shape of various metastable structures of microphase separation of ABA triblock copolymers that can be observed in a computer simulation. For the quantification, we focused on the domains where the volume fraction of B (or A) is greater than a preset threshold, and defined a measure that indicates how the size of the largest connected component of such domains decreases as the threshold increases. The value of the measure was strongly correlated with the free energy of the metastable structures.

1 研究目的

ブロック共重合体は,溶融体を作成すると,モノマー間の相互作用の大きさやブロック比によって,スフィア,シリンダ,ダブルジャイロイド,ラメラといった様々なミクロ相分離構造をとる [1].これらの構造は,自己無撞着場理論に基づくシミュレーションからも再現することができる [2, 3].シミュレーションにおいては,初期状態における空間上の体積分率分布に依存して,安定構造とは異なる様々な準安定構造が形成される(Figure 1).

Figure 1.

 Examples of (a) stable structure (Double gyroid) and (b)-(d) metastable structures as ϕ = 0.35.

本研究では,これらの多様な準安定構造の形状の差異を数値化し,自由エネルギーとの関係性を捉えることを目的とした.形状の数値化のために,体積分率分布を3次元格子として扱い,ある閾値以上の体積分率をもつ格子点の最大連結成分に着目した.閾値の変化に対する最大連結成分のサイズの変動を解析することにより,空間構造の特徴づけを行う.

2 方法

ABA対称トリブロック共重合体について,自己無撞着場理論に基づくシミュレーションで得られた準安定構造のデータを解析した.Aの組成比(ϕ) 0.15, 0.20, 0.25, 0.30, 0.35, 0.40, 0.45, 0.50について調べた(ϕ = 0.35は100サンプル,その他のϕは20サンプル).これに加えϕ = 0.35のときの安定構造であるダブルジャイロイド(DG)(Figure 1 (a))も解析した.個々のデータは,N = 643の格子点上の体積分率データである.

本研究では,B成分の体積分率がある閾値fより大きい格子点により構成される3次元格子内のネットワークを考える.ここで,最近接格子同士が共にfより大きいBの体積分率をもつとき,これらは連結していると考える.以降便宜的にこのネットワークをドメインと呼ぶことにする.ネットワーク構造の頑健性を評価するために,ネットワークの頂点を取り除く操作によりネットワークの最大連結成分がどう変化するかを調べるパーコレーション解析の手法があり [4],本研究ではこの手法を解析に取り入れた.閾値fを増加させることにより頂点を取り除く操作を行うことで,ドメインの最大連結成分S(f)がどのように減少するかを調べた.最大連結成分のサイズS(f)はfの増加に応じてFigure 2のように減少する.このS(f)の関数形を積分値R(ζ)=(1/N)0ζS(f)dfで特徴づける [4].そして,R(ζ)と自由エネルギーとの相関を確認した.

Figure 2.

 Each curve exhibits the size of the largest connected component S(f) against the threshold f for each metastable structure.

一方で,様々な閾値f = 0.05,0.10,…,0.95について,fにより定まるドメインとその補空間との境界面にも着目し,境界面積と自由エネルギーとの関係を調べた.境界面の面積は,ドメイン内の境界に接する格子点数と,補空間内の境界に接する格子点数との平均として算出した.

3 結果と考察

Aの組成比ϕが高いとき,幅広いζについて,R(ζ)と自由エネルギーとの間に強い相関がみられた(Figure 3).一方ϕが低いときは,おおむねζ = ϕとなるようなζについてのみ,R(ζ)と自由エネルギーとの相関が強くなった.Figure 4では,様々なfについて算出した境界面積と自由エネルギーとの間の相関係数を示し,ζ = ϕのときのR(ζ)と自由エネルギーとの相関係数と比較している.ほとんどのϕについて,境界面積よりもR(ζ)の方が自由エネルギーと強く相関していた.また,A成分の体積分率がある閾値fより大きい格子点で構成されるドメインについても同様の解析を行ったが,その場合のR(ζ)と自由エネルギーとの相関は,A組成比が高いときのみ有意であり,Figure 3で示されているほどの強い相関はみられなかった.

Figure 3.

 Pearson correlation coefficient between R(ζ) and the free energy of metastable structures at each ζ.

Figure 4.

 Pearson's correlation coefficient between the free energy and R(ζ)|ζ=ϕ (▲), and between the free energy and the boundary area defined for various thresholds f (○).

閾値fを増加させることによりドメイン境界付近の格子点が除去され最大連結成分が痩せ細っていく様子は,S(f)の関数形やR(ζ)に集約されている.特に,自由エネルギーと関係する相分離の界面の状態も,ある範囲のfに対するS(f)やR(ζ)に反映されていると考えられる [5].そのことが,R(ζ)と自由エネルギーが強く相関していることの理由であると推測される.また,様々なfの値により定義したドメイン境界の面積よりもR(ζ)の方が強く自由エネルギーと相関したことから,R(ζ)は自由エネルギーと関係する界面積や界面厚み等の特徴を総合的に捉えるのに有用な指標となり得ることが予想される.今後は,R(ζ)が力学応答等の自由エネルギー以外の物性についても説明し得るか検証する.

謝辞

本研究はJSPS科研費JP17H06468及びJP17H06464の助成を受けたものです.

参考文献
 
© 2020 日本コンピュータ化学会
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