Journal of Computer Chemistry, Japan
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速報
Ni-ZSM-5によるメタノール酸化反応の理論的研究
田中 靖也Mahyuddin Muhammad Haris塩田 淑仁吉澤 一成
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2020 年 19 巻 4 号 p. 151-153

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Abstract

Ni-ZSM-5 is a promising catalyst for the conversion of methane to methanol. In many methane oxidation catalysts, the problem is that the oxidation reaction continues after methane oxidation (over-oxidation). The ease of over-oxidation is an important factor in evaluating the performance of methane oxidation catalysts. In the present study, we performed density functional theory (DFT) calculation to evaluate the two reaction pathways for the oxidation of methanol to formaldehyde by Ni-ZSM-5. DFT calculations indicated that the activation energies for the C-H bond cleavage are more than 40 kcal/mol in the reaction pathways. After methane oxidation the second step reaction corresponding to the methanol oxidation by [Ni-O-Ni]2+ is unlikely to occur.

1 研究背景と目的

メタンは天然ガスの主成分であり,エネルギー資源や化学品の原料として広く利用されている.しかし,常温常圧で気体として存在するため,貯蔵・運搬にコストがかかる.そのため,メタンを温和な条件で化学修飾する反応が求められている.その候補の1つとして,Ni-ZSM-5はメタン-メタノール変換反応の触媒として期待されている [1, 2].先行研究において,Ni-ZSM-5触媒によるメタン水酸化は200°C以下の条件で進行可能であると報告されている [1].量子化学計算によりメタン水酸化の金属活性種はNi-ZSM-5のビス(μ-オキソ)二核ニッケルサイトであると提案されている [2](Figure 1. (1)).しかし,メタノール収率低下の要因となる過剰酸化の反応機構,すなわちメタノール酸化反応についてはいまだによくわかっていない.本研究はメタン酸化反応(Figure 1. (1))に続いて起きる反応について反応解析を行った. 二段階目の反応は(μ-オキソ)二核ニッケルサイトのもう一つの架橋酸素によるメタノール酸化反応(Figure 1. (2))に対応する.

Figure 1.

 (1) First methane oxidation, and (2) continuous methanol oxidation

2 方法

本研究では,ZSM-5ゼオライトの結晶構造を元にa = 20.4 Å, b = 20.1 Å, c = 13.5 Åの単位格子を作成し,周期的境界条件を用いて計算した.活性点モデルとしてケイ素10員環の1つに,(μ-オキソ)二核ニッケルサイトを作成した(Figure 2).O-H結合とC-H結合はほぼ等しい結合解離エネルギーを持つため [3],メタノールの酸化機構として2種類の反応経路(Figure 3)を考えた.反応経路のエネルギー計算は量子化学計算ソフトVienna Ab-initio Simulation Package (VASP) を用いた.計算中は原子に座標は固定せず,スピン多重度は固定した.汎関数にはGGA-PBE+Uを用いた.Niの強電子相関効果を取り扱うために,ハバードパラメータUeff = 4.0 eVを設定した.カットオフエネルギーは550 eV,k点メッシュはΓポイントに設定し,擬ポテンシャルにはPAW (projector augmented wave) 法を,分散力補正法にはGrimme's D2法 を用いた.また,SCF (self-consistent field) エネルギーの収束条件は1.0 × 10−5 eVに設定し,各原子にかかる力の収束条件は0.05 eV/Å以下とした.各ステップの遷移状態探索はClimbing-Image Nudged Elastic Band (CI-NEB)法を用いた.

Figure 2.

 Active site model

Figure 3.

 Assumed oxidation scheme

3 結果および考察

Figure 4は2つの反応経路に対応するエネルギー変化を示す.これらの反応の律速段階はともにC-H結合の開裂であり,その活性化エネルギーはそれぞれ51.6 kcal/mol (TS2), 40.3 kcal/mol (TS3)であった.どちらの反応経路においても基底状態のスピン多重度が5重項から3重項に変化している.この電子状態変化はNi原子の還元に対応し,C-H結合の解離による基質からの電子移動を示す.Ni-ZSM-5を用いた先行研究の報告では,メタン酸化反応の律速段階の活性化エネルギーは実験 [1]19.9 kcal/mol,量子化学計算 [2]15.3 kcal/molである.これらの結果から,ビス(μ-オキソ)二核ニッケルサイトによるメタン水酸化反応後(Figure 1. (1)),生成物であるメタノールと(μ-オキソ)二核ニッケルサイト(Figure 1. (2))との酸化反応は進行しにくいことが明らかとなった.そのため,(μ-オキソ)二核ニッケルサイトは酸化反応に寄与せず,酸素分子などの酸化剤によって再酸化されることでビス(μ-オキソ)二核ニッケルサイトを形成し,触媒が再生する.一方,Ni-ZSM-5によるメタン酸化の実験においては過剰酸化によるギ酸の存在が確認されている [1].一般的にメタンよりもメタノールのほうが酸化されやすいため,生成したメタノールは,脱離後に,別のビス(μ-オキソ)二核ニッケルサイトで酸化され,ギ酸などの過剰酸化生成物になると考えられる.

Figure 4.

 Energy diagrams for the methanol oxidation over Ni-ZSM-5

4 結論

Ni-ZSM-5によるメタノール酸化反応について,密度汎関数計算により二つの反応経路を検討した.各反応経路の律速段階はともにC-H結合の解離であり,その活性化エネルギーは40 kcal/mol以上となった.これらの結果から,ビス(μ-オキソ)二核ニッケルサイトでメタン酸化反応が起こった後,もう一つの架橋酸素によるメタノールの酸化反応は進行しにくく,メタノールの酸化過程は,別のビス(μ-オキソ)二核ニッケルサイトで進行する.

参考文献
 
© 2020 日本コンピュータ化学会
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