Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Papers)
Improving the Accuracy of Crystal Structure Prediction Using FMO Crystal Energy: An Example of Target XXIII
Yohei UTSUMIDaiki UMEDAKoji OKUWAKIShigeaki OBATANaofumi NAKAYAMAHitoshi GOTOTakayuki FURUISHIKaori FUKUZAWAEtsuo YONEMOCHI
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2021 Volume 20 Issue 3 Pages 92-93

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Abstract

The aim of this study is to improve the accuracy of crystal structure prediction for Target XXIII, which was the target of the 6th Crystal Structure Prediction Blind Test (CSP6), by using the fragment molecular orbital (FMO) method. The intermolecular interaction analysis revealed that the dispersion interaction is stronger than the electrostatic interaction in all crystal polymorphs. In our method, the three correct structures included in the predicted structures were located within the top five. Furthermore, it was possible to evaluate the stability of polymorphs by the difference of intramolecular hydrogen bonds.

Translated Abstract

The aim of this study is to improve the accuracy of crystal structure prediction for Target XXIII, which was the target of the 6th Crystal Structure Prediction Blind Test (CSP6), by using the fragment molecular orbital (FMO) method. The intermolecular interaction analysis revealed that the dispersion interaction is stronger than the electrostatic interaction in all crystal polymorphs. In our method, the three correct structures included in the predicted structures were located within the top five. Furthermore, it was possible to evaluate the stability of polymorphs by the difference of intramolecular hydrogen bonds.

1 背景と目的

医薬品開発において,結晶多形構造の違いが熱安定性,溶解度などの物性に影響するため,結晶多形の出現を予測・制御できれば,医薬品開発の効率は加速すると考えられる.国際的には結晶構造予測 (CSP) のブラインドテストが数年ごとに開催されている. 2015年に開催されたCSP6 [1]では,共著者である小畑・後藤らが参加し 5つの結晶多形 (Form A-E) をもつTarget XXIII (Figure 1) に対して,結晶構造予測を行った.その結果,追加検証を含め3つの結晶多形を予測できた.しかしながら 計算予測による膨大な候補構造の中から正解構造を取り出すことは依然として困難である.そこで本研究では,追加検証で得られた正解結晶構造を含む200個の予測構造に対してフラグメント分子軌道法 (FMO) 法 [2] に基づく量子化学計算を行い,更なる結晶エネルギー評価の高精度化を目指した.

Figure 1.

 Structure of Target XXIII

2 計算方法

FMO結晶エネルギーとは中心1分子に着目し,分子の内部歪みエネルギーΔE(N)Confと周辺分子との分子間相互作用エネルギー12ΔE˜(N)IJの和によってN位の予測構造に対し,式 (1) のように定義している.   

ΔE(N)=ΔE(N)conf+12ΔE˜(N)IJ
(1)

配座・結晶構造探索ソフトCONFLEX によるMMFF94s力場を用いた結晶構造予測の後,PBE汎関数とTkatchenko-Scheffler分散力補正を用いたDFT-D計算によって順位付けされた200個の予測構造に対し,式 (1) によって再評価をした.ここで,FMO計算には中心分子から第2層目までを含んだ微結晶モデルを用いた.計算プログラムはABINIT-MPを用い,スーパーコンピューター Oakforest-PACSで FMO2-MP2/6-31G*レベルの計算を行った.得られたフラグメント間の相互作用エネルギー (IFIE) は,エネルギー成分分割 (PIEDA) 法 [3]を用いて,静電相互作用(ES)・交換反発(EX)・電荷移動(CT) ・分散相互作用(DI)に分割し解析した.

3 結果

X線結晶構造解析により得られたTarget XXIIIの実験構造の特徴として,分子間相互作用はカルボキシ基間でR22(8)型の水素結合を形成して2量体となること,さらに分子内相互作用としてNHとC=O間で水素結合を形成することが挙げられる.中心分子からの相互作用をPIEDAで評価すると,水素結合はES成分,π-πスタッキングやCH/πなどの疎水的な相互作用はDI成分の安定化として現れる (Figure 2).IFIEとPIEDAによる中心分子と周囲分子との相互作用評価では, ESよりDIが大きいことが分かった.すなわち,シントンを形成している部分だけでなく,スタッキングによる相互作用が結晶形成において重要であることが明らかとなった.さらに,200個の予測構造に対するFMO計算結果からは,密度の大きい結晶ほどDIによる安定化が大きくなる傾向があり,結晶の密度が結晶の安定性に大きく寄与していると考えられた.

Figure 2.

 Main interaction sites of ES and DI of Form A (in kcal/mol)

密度とFMO結晶エネルギーに基づく評価 (Figure 3)では,予測構造に内包されていた3つの正解構造 (Form A, B, D) が5位以内に位置することが分かった.また正解構造は実験構造のプロットと重なり,同じ構造であることが示された.次に各予測構造の分子内のコンフォメーションを確認すると,実験構造とは異なる分子内水素結合が散見された. FMO結晶エネルギーを用いた評価では,実験構造と同様の分子内水素結合を形成している分子の方が安定であり,実験事実と一致していた.

Figure 3.

 Energy landscape from observed and predicted structures.

4 結論

FMO結晶エネルギーによる評価では,結晶多形の安定性における順位付けが高精度に行えるだけでなく,分子間相互作用の定量的解釈が可能となり,結晶構造予測や医薬品開発に有用な知見をもたらす.結晶において,水素結合による静電相互作用よりも,スタッキングによる分散力が構造の安定化に重要であることが分かった.FMO計算を用いた結晶多形の評価は,結晶構造の新たな予測手法として,プレフォーミュレーションにおける原薬形態の選択の効率化への貢献ができると期待できる.

謝辞

本研究の一部は,FMO創薬コンソーシアム(FMODD)の活動の一環として実施され,Oakforest-PACSを利用した(HPCI課題番号:hp200101).また科研費の支援を受けた (17H06373, 21K05015).

参考文献
 
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