2021 Volume 20 Issue 4 Pages 144-146
For middle molecule drug discovery, a coarse-grained model in which amino acid residues were treated with an amino acid pair interaction was investigated. To treat both natural and artificial types of amino acids and staples, new interaction potentials were developed by umbrella sampling. For any artificial types of amino acids, the amino acid its potential was similar enough was extracted by using our method applied the structure similarity.
For middle molecule drug discovery, a coarse-grained model in which amino acid residues were treated with an amino acid pair interaction was investigated. To treat both natural and artificial types of amino acids and staples, new interaction potentials were developed by umbrella sampling. For any artificial types of amino acids, the amino acid its potential was similar enough was extracted by using our method applied the structure similarity.
ペプチドは巨大な分子であり,その構造や相互作用はアミノ酸単位で分割した粗視化モデルによる検討が行われてきた [1, 2].我々は,中分子創薬への適用を視野に入れて粗視化モデルによるペプチドの構造探索を加速するための研究を行っている.環状ペプチドの構造をアミノ酸粒子が格子点上に配置するものとして粗視化し,組合せ最適化問題として取り扱い,デジタルアニーラを用いて安定配置を探索する [3].この時,各配置における安定性はアミノ酸分子間の相互作用ポテンシャルにより検討される.非天然アミノ酸を取り扱いたいというニーズに応え,アミノ酸間相互作用ポテンシャルは分子動力学シミュレーションより作成している.
ここで非天然アミノ酸は無数にあり,全てのアミノ酸間相互作用ポテンシャルを作成することは現実的でない.そこで,相互作用ポテンシャルの代替可能性を探るために分子構造の類似度とアミノ酸間相互作用ポテンシャルの類似度を調査した結果を報告する.
分子構造を元素種と結合様式についてのグラフ(Figure 1)とみなし,比較する 2
分子のグラフの重ね方を組合せ最適化問題としてデジタルアニーラで取り扱った.重なりが最大となるような分子構造の共通部分構造を抜き出し,各分子内における共通部分構造の割合の平均を構造類似度(S1)として算出した(0≤S1≤1)
[3, 4].後述するように分子構造の類似度だけでは評価できない場合があったため,電荷の正負が一致するアミノ酸には 1 ,一致しないアミノ酸の場合は 0 を返すデルタチャージ(

The graph of molecule structure. It shows the difference of species of elements (vertex color) and types of bonds (line). The vertex it corresponds each molecule are showed with bold line.
任意のアミノ酸間相互作用ポテンシャルを作成するために,ペプチド鎖中におけるアミノ酸残基をモデリングし,水分子を陽に扱った Umbrella samplingを行った.得られたサンプリング結果をもとに,Weighted Histogram Analysis Method (WHAM) により potential mean force (PMF) を作成した [5].力場には GAFF をベースに作成した富士通オリジナルの力場である FF-FOM を使用し,全ての分子動力学計算及び解析には GROMACS を使用した.力場の作成に必要な量子化学計算には Gaussian 09 を使用した.なお,力場の作成には各アミノ酸における 1 つの安定構造のみを用いているが,比較的小さな構造の分子であるため,充分と判断した.各アミノ酸とフェニルアラニンの相互作用ポテンシャルを用いて相互作用ポテンシャルの比較を行った.相互作用ポテンシャルエネルギーの比較には各距離における PMF 値の差の内,最大値(∆PMFmax)を見ることとし,これが弱い水素結合の 1/10 程度の0.2 kcal/mol 以下であれば,両ポテンシャルは代替するのに充分に類似しているとみなした.
分子構造類似度 S1 を用いて抽出されるアミノ酸の電荷が比較元と同じ電荷をもつ場合,相互作用ポテンシャルも類似したアミノ酸が抽出されてくることが分かった.一方で,電荷が異なるアミノ酸分子間の場合,たとえ分子構造の類似度が高くても,相互作用ポテンシャルが類似していないことが分かった.その一例としてasparagine (ASN) − phenylalanine (PHE), aspartic acid (ASP) − phenylalanine (PHE) ペアにおける相互作用ポテンシャルの比較を示す(Figure 2).S1=0.92 に対し,∆PMFmax = 1.56 kcal/mol と大きかった.そこで,電荷を考慮した S2 によりASP に対する構造類似分子を再抽出したところ,充分に類似した相互作用ポテンシャルを持つ GLU (S1= 0.89)が抽出された(Figure 3).S2= 0.95 に対し,∆PMFmax = 0.16 kcal/mol と相互作用ポテンシャルを代替するのに充分なほど小さかった.

PMF of asparagine (ASN) − phenylalanine (PHE) (orange) and aspartic acid (ASP) − phenylalanine (PHE) (blue) (kcal/mol).

PMF of glutamic acid (GLU) − phenylalanine (PHE) (orange) and aspartic acid (ASP) − phenylalanine (PHE) (blue) (kcal/mol).
改良分子構造類似度 S2 により各天然アミノ酸において最も構造類似度が高いと抽出された天然アミノ酸とそれぞれの相互作用ポテンシャルにおける∆PMFmax を示す(Table1).多くのアミノ酸において,∆PMFmax = 0.2 kcal/mol 以下であり充分に相互作用ポテンシャルの類似度が高いアミノ酸が抽出された.
| amino acidA | amino acidB | molecular similarity S2 | ∆PMFmax(kcal/mol) |
| ALA | CYS | 0.95 | 0.10 |
| SER | 0.95 | 0.15 | |
| ARG | GLN | 0.87 | 0.71 |
| LYS | 0.87 | 0.64 | |
| ASN | ASP | 0.92 | 1.56 |
| ASP | ASN | 0.92 | 1.56 |
| CYS | ALA | 0.95 | 0.10 |
| GLN | GLU | 0.93 | 1.65 |
| GLU | GLN | 0.93 | 1.65 |
| GLY | ALA | 0.95 | 0.20 |
| HIS | ILE | 0.79 | 0.30 |
| LEU | 0.79 | 0.52 | |
| MET | 0.79 | 0.21 | |
| ILE | VAL | 0.96 | 0.15 |
| LEU | ILE | 0.92 | 0.22 |
| LYS | LEU | 0.89 | 0.74 |
| MET | 0.89 | 0.52 | |
| MET | ILE | 0.92 | 0.16 |
| PHE | THR | 0.97 | 0.53 |
| PRO | ALA | 0.92 | 0.26 |
| THR | 0.92 | 0.30 | |
| VAL | 0.92 | 0.30 | |
| SER | THR | 0.96 | 0.19 |
| THR | SER | 0.96 | 0.19 |
| TRP | LYS | 0.87 | 0.92 |
| TYR | PHE | 0.97 | 0.56 |
| VAL | ILE | 0.96 | 0.15 |
以上の結果を踏まえて,非天然アミノ酸である N-methyl phenylalanine (NMF) の相互作用ポテンシャルを天然アミノ酸において代替できるか検討した.S2 が最も高かった天然アミノ酸は PHE で,その値は 0.99 であった.PHE-PHE, NMF-PHE を比較すると,∆PMFmax = 0.16 kcal/mol と小さく,代替するのに充分なほど相互作用ポテンシャルが類似したアミノ酸を抽出できていた.
天然アミノ酸を用いて,分子構造の類似度から類似した相互作用ポテンシャルを持つアミノ酸分子を抽出できるか検討した.その結果,電荷の正負の一致を考慮することで多くの場合において相互作用ポテンシャルが充分に類似したアミノ酸を抽出できると分かった.ただし,今回の検証では相互作用ポテンシャルの類似したアミノ酸を抽出できなかったものが存在する.今後は,例えばフィンガープリントや軌道エネルギーなどを取り込んだ検討により,今回の検証では抽出できなかったアミノ酸分子もカバーできるような抽出方法を検討する.