Journal of Computer Chemistry, Japan
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Letters (Selected Paper)
Development of Quantum Algorithm qUCC-LR for Excited-State Calculation Using Dynamic Polarizability
Tomoya TAKANASHITakeshi YOSHIKAWAHiromi NAKAI
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2021 Volume 20 Issue 4 Pages 140-143

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Abstract

In this study, we propose the quantum algorithm based on the unitary coupled cluster linear response theory for excited-state calculations with single and double excitations, denoted as qUCCSD-LR. Instead of the standard eigenvalue-problem-based scheme, the algorithm utilizes the dynamical-polarizability-based scheme, where the pole relative to the frequency of an external electric field corresponds to an excited state. Numerical applications of the qUCCSD-LR method to H2 could reproduce the dynamical polarizabilities, excitation energies and oscillator strengths obtained by the standard CCSD-LR method. Furthermore, potential energy curves for the double bond rotation in the ground and excited states of C2H4 were accurately calculated by the proposed method.

Translated Abstract

In this study, we propose the quantum algorithm based on the unitary coupled cluster linear response theory for excited-state calculations with single and double excitations, denoted as qUCCSD-LR. Instead of the standard eigenvalue-problem-based scheme, the algorithm utilizes the dynamical-polarizability-based scheme, where the pole relative to the frequency of an external electric field corresponds to an excited state. Numerical applications of the qUCCSD-LR method to H2 could reproduce the dynamical polarizabilities, excitation energies and oscillator strengths obtained by the standard CCSD-LR method. Furthermore, potential energy curves for the double bond rotation in the ground and excited states of C2H4 were accurately calculated by the proposed method.

1 はじめに

2005年,Schrödinger方程式の数値的厳密解である完全配置間相互作用(FCI)法の位相推定アルゴリズム(PEA)に基づく量子計算が開発された [1].PEAによるFCI法は,計算コストを多項式時間にスケールし,超伝導,光量子,核磁気共鳴等の様々な方式の量子コンピュータによる実証が試みられた [2,3,4].量子・古典コンピュータを併せて用いる変分量子固有値ソルバー(VQE)法 [5]は,量子ゲートの演算を削減し,現在の主流となりつつある.特に,ユニタリー変換結合クラスター(UCC)法 [6]を適応したqUCC/VQE法 [7]は盛んに研究され,構造最適化や励起状態計算への拡張も報告されている [8,9,10,11].UCC法とは,古典コンピュータでは実行が困難なクラスター展開に基づく変分手法であり,量子コンピュータでの有用性が示されている.現在,量子コンピュータのハードウェア性能を効率的に用いる手法も開発されており [12],量子コンピュータによる量子化学計算は著しく発展している.これらの量子アルゴリズムの詳細は総説論文 [13]にまとめられ,材料科学への適用可能性も示唆されている [14].また,量子計算に基づく量子化学計算は,日本国内でも関心・期待が急速に増大しており日本語による専門書も出版されている [15].

しかし,現在,実現されている量子ビットは数100程度であり,qUCC/VQE法の適用可能な系は量子ビット数の制約から小分子に限られている.近年では,量子計算に対して様々な分割型計算理論を適用することで,量子計算に必要なリソースを削減する可能性が示された [16].著者らのグループでも,分割型計算理論である分割統治(DC)法 [17,18,19]とqUCC/VQE法を組み合わせることにより,必要な量子ビット数を削減した.本研究では,UCC法に基づく大規模励起状態計算の確立を目指した.特に,一般的な固有値方程式を解く手法ではなく,動的分極率の極から励起状態の情報を得る線型応答(LR)理論 [20]を応用した.さらに,開発した量子アルゴリズムqUCC-LRの数値検証も行った.

2 理論と実装

従来のCC-LR法では,共役なCC波動関数を用いた行列要素が必要となるが,脱励起項に由来する無限次の展開が必要となる.そのため,通常は共役状態を露わに用いず,Lagrange未定乗数により間接的に行列要素が計算される.量子コンピュータを用いた場合,基底状態のUCC法と同様,励起状態のUCC-LR法に必要となる脱励起項を含んだ行列要素も直接計算することが可能である.

UCC-LR法では,振動電場exp (±iωt)に対する応答量として動的分極率を求める.振動電場下の1次摂動状態は,以下の線型方程式から得られる.   

n Φ m | ( E UCC ω ) I H ¯ | Φ n A n 0 ( 1 ) = Φ m | d ¯ | Φ 0 (1)
Φ0と{Φm, Φn}は参照配置と励起配置,An0(1)(± ω)は1次摂動の結合係数である. H ¯ d ¯ は,それぞれ次式で定義される有効ハミルトニアンと有効双極子演算子である.   
H ¯ = exp ( U ^ ) H ^ exp ( U ^ ) (2)
ここで,ÛはqUCC/VQE法により得られる基底状態に対するクラスター演算子である.本実装では,まず(1)式の両辺の行列要素(ブラ・ケットの積分)を量子コンピュータで測定する.左辺の行列要素は振動電場がない状態(ω = 0)に対する値を求める.次に古典コンピュータで,振動電場の寄与を行列の対角要素に加えた線形方程式を解き,An0(1)(± ω)を求める.その結果から,(3)式により動的分極率α(ω)を古典コンピュータにより計算する.   
α ( ω ) = Tr [ D ( 1 ) ( ω ) d ] (3)
  
D p q ( 1 ) ( ω ) = 1 2 Φ 0 | [ exp ( U ^ ) a p a q exp ( U ^ ) , A ^ ( 1 ) ( ω ) ] + [ exp ( U ^ ) a p a q exp ( U ^ ) , A ^ ( 1 ) ( ω ) ] | Φ 0 (4)
ここで,{p, q}は一般の軌道を表している.(4)式の応答密度行列は量子コンピュータで測定し,α(ω)が発散する振動数(極)から励起エネルギーと振動子強度を見積る.本研究では,量子コンピュータシミュレータを用いて2電子励起まで考慮したUCCSD-LR法を実装し,先に実装したqUCCSD/VQE法による基底状態計算と連結した.

開発したqUCC-LR法のアルゴリズムをFigure 1に示す.まず,STEP 1にて,(1)式のCI行列と有効双極子モーメント行列,及び(4)式の応答密度行列の行列要素を量子コンピュータにより算出する.STEP 2では,古典コンピュータにより(1)式で示される線形方程式を解き得られた1次摂動結合係数を用いて,(4)式から応答密度行列を構築する.STEP 3では,得られた密度行列と双極子モーメント行列から周波数ωに対する動的分極率を算出する.本実装では,qUCCSD/VQE法の参照状態としてHartree-Fock (HF)波動関数を用いた.HF計算,Jordan-Wigner変換,量子コンピュータシミュレータ,変数最適化には,それぞれPythonライブラリであるPySCF [21],OpenFermion [22],Qulacs [23],SciPy [24]を用いた.また,分子の描画には原子・分子構造モデリング・可視化ソフトウェアWinmostar [25]を用いた.

Figure 1.

 Schematic algorithm of qUCC-LR method.

3 結果と考察

Figure 2は,qUCCSD-LR法と従来のCCSD-LR法により計算したH2分子(結合長0.75 Å, 6-31G基底)の動的分極率(振動電場15.0-15.5 eV, σ-σ*励起に対応)である.2電子系のH2分子ではCCSD-LR計算が厳密解を与える.qUCCSD-LR法の結果は,CCSD-LR法の結果と一致し,正しく実装できていることが示された.

Figure 2.

 Dynamical polarizabilities of H2 calculated by CCSD-LR and qUCCSD-LR methods.

Table 1は,動的分極率の極より算出した励起エネルギーωと振動子強度fを示す.qUCCSD-LR法は,動的分極率だけでなく,励起エネルギーや振動子強度も厳密解を与えるCCSD-LR計算の結果と一致した.

Table 1.  Excitation energies and oscillator strengths of H2 calculated by CCSD-LR and qUCCSD-LR methods.
Method ω [eV] f [a.u.]
CCSD-LR 15.23 0.64
qUCCSD-LR 15.23 0.64

Figure 3に,エチレンのS0とS1状態における炭素-炭素間二重結合回転に対するポテンシャル曲線を示す.基底関数を6-31G**,活性電子を6個と活性軌道を6個とした.S0状態とS1状態どちらの場合においてもqUCCSD法はFCI法によるポテンシャル曲線を0.4 mhartree以下の誤差で再現した.

Figure 3.

 Potential energy curves for double bond rotation of C2H4 in the ground and excited states calculated by qUCCSD and FCI methods.

4 まとめ

本研究では,動的分極率による励起状態計算の量子アルゴリズムqUCC-LR法を開発した.特に,古典コンピュータでは計算が困難な脱励起項由来の行列要素が,量子コンピュータにより直接計算できる.H2およびC2H4分子を用いた数値検証では,厳密解の動的分極率,励起エネルギー,振動子強度を再現することが確かめられた.

謝辞

本研究で行った量子化学計算の一部は,自然科学研究機構(NINS)・計算科学研究センター(RCCS)の計算機を利用して行った.

参考文献
 
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