2022 年 21 巻 4 号 p. 123-125
In this study, the trajectories of the four protomers corresponding to the light chain tetramers of human antibodies were obtained from MD simulations. The four protomers, which should be symmetrically constructed, were not completely symmetrical in the simulations. The DSSP analysis and 2D-RMSD analysis of the four protomers showed that although the secondary structure of the four protomers is approximately the same, the deconvolution of part of the α helix leads to the asymmetry of the overall structure in the simulation. Although the number of interactions within the protomers decreases, that between the protomers increases, making the overall energy more stable. We hypothesize that the deconvolution is caused by the formation of the α helix fragment in the tetramer, and the hydrogen bonding and van der Waals forces between the protomers lead to the breakage of the hydrogen bond within the protomers, further leading to the disappearance of the α helix.
抗体は生体防御の中で分子認識に特化したタンパク質であるが,ある種の抗体は,部品に分けることで,結合した抗原(例えばAβタンパク質,PD-1タンパク質)に対する分解能を発揮することが,一二三らによって見出されている [1].触媒活性を持つ抗体は,ウイルスに結合した状態でウイルスを除去できることが期待されるが,その触媒活性は通常の酵素よりも弱い.触媒活性を上げるには,単量体を多量体に変換させることが一つの解決策と考えられている.タンパク質の多量体は単量体より,活性部位の局所濃度が高い,結合面が大きく水溶液中での安定性が期待されるなどの様々な利点がある. 抗体の場合は,多量体を形成することでタンパク質の触媒活性を高めることができる [2].最近,共同研究者らは3次元ドメインスワップ(3D-DS)による4量体抗体軽鎖(Figure 1)を合成することに成功した [3].
Tetramer of antibody light chain
本研究では,抗体軽鎖4量体について,3D-DSが担う機能を解明し,及び水溶液中の触媒活性を評価するために,分子動力学シミュレーションを通して,3D-DSタンパク質中のプロトマー(単量体)の2次構造の形成率を解析し,4量体安定性を評価することを目的とした.
本研究では,分子動力学法を用いて,抗体軽鎖3D-DS 4量体に対してNPTアンサンブル(P = 1atm,T = 300K)の条件下で1μsのシミュレーションを行った.MDシミュレーションソフトウェアはAMBER20 [4]を使用し,アミノ酸,水の力場はAmberff19sb,TIP3Pを使用した.得られたトラジェクトリに対して,水素結合推定アルゴリズム(DSSP) [5]によるタンパク質のアミノ酸の二次構造解析,2D-RMSDによる二次構造の安定性解析を行い,4量体構造中のプロトマー間の対称性の分析を行った.ここで,4量体の初期構造は結晶構造 [3]を用いてモデル構造を作成した.
結晶構造では,プロトマーの二次構造は主にβシート,αヘリックス,βターンで構成されており,プロトマーAとプロトマーBが二量体ABを形成し,同様にプロトマーCとプロトマーDが二量体CDを形成するので,プロトマーA,CとプロトマーB,Dには構成上の類似性がある.4つの同一のプロトマーが相互作用することで4量体を構成しているが,今回の300K,水環境での1μsのMDシミュレーションでは4つのプロトマー全てが非対称な構造をとることが分かった.
Figure 2 b)のDSSP解析を見ると,最も多い二次構造はβシートとβターンであった.4つのABCDプロトマーのβシートとβターンがほぼ同時に,同じ位置に出現している.一方でFigure 2 b)の黄色で示した残基(アミノ酸27-38)は時折,αヘリックスを形成している.つまり,4つのABCDプロトマーが対称性を示さない主な理由は,Figure 2 a)の黄色のペプチド鎖の二次構造の変化である.同時に2D-RMSD画像Figure 2 c)を比較すると,プロトマー構造変化はこのペプチド鎖の二次構造変化と基本的に対応している.例えばプロトマーBでは,0.2μs付近でαヘリックスを形成し,より安定な構造となっている. しかし,プロトマーBとは異なり,プロトマーCおよびDの対応するフラグメントのαヘリックスは,それぞれ0.1μsと0.2μs付近で解けている.αヘリックスが解けると,対応する水素結合が消えて分子の全体エネルギーはより不安定になるはずだが,プロトマーDの場合,αヘリックスにあるアミノ酸がプロトマーAと相互作用し,別の水素結合やファンデルワールス相互作用を形成した.そのため,プロトマー内の水素結合が切れたエネルギー損失を補償していることが分かった.
a) Structure of the yellow peptide chain b) DSSP analysis c) 2D-RMSD
本研究では,抗体軽鎖の3D-DS構造による4量体のMDシミュレーションより4つのプロトマーのトラジェクトリーを計算したところ,構造が対称であるはずの4つのプロトマーが,シミュレーションでは完全に対称でないことが判明した.4つのプロトマーのDSSPと2D-RMSD解析の結果,4つのプロトマーの二次構造はほぼ同じであるが,αヘリックスの一部が形成したり崩壊したりすることによって,全体の構造に非対称性が生じることがわかった. この形成・崩壊は,プロトマー間の水素結合やファンデルワールス相互作用の変化によって生じ,分子が全体的に揺らぎながらエネルギー安定状態になるためだと推測される.今後は,得られた量子化学計算を用いた酵素反応解析 [6, 7]によって,基質切断過程における構造非対称性の効果を研究する方針である.
本研究はJST 科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 JPMJFS2106の支援を受けたものです.結晶構造については,共同研究者の廣田教授により提供されました.感謝申し上げます.