2022 年 21 巻 4 号 p. 134-136
A 3-dimensional domain swapping (3D-DS) phenomenon is a promising way to make a stable multimer because interactions in the multimer is about the same as that of a monomer; it would be useful to artificially design a functional protein's multimer. In this study, molecular dynamics (MD) simulation of cytochrome c(cyt c) that is known to form a 3D-DS dimer (PDB ID: 3NBS) was performed to study factors that enhance 3D-DS structure sampling. Our results show a difficulty of 3D-DS structure sampling and a necessity of a method such as the generalized ensemble method. The results also show the importance of a loop-flexibility to sample 3D-DS structure; when the bond and torsion angle potential coefficients are less than 10% of secondary structure, 3D-DS structures become easy to sample.
A 3-dimensional domain swapping (3D-DS) phenomenon is a promising way to make a stable multimer because interactions in the multimer is about the same as that of a monomer; it would be useful to artificially design a functional protein's multimer. In this study, molecular dynamics (MD) simulation of cytochrome c(cyt c) that is known to form a 3D-DS dimer (PDB ID: 3NBS) was performed to study factors that enhance 3D-DS structure sampling. Our results show a difficulty of 3D-DS structure sampling and a necessity of a method such as the generalized ensemble method. The results also show the importance of a loop-flexibility to sample 3D-DS structure; when the bond and torsion angle potential coefficients are less than 10% of secondary structure, 3D-DS structures become easy to sample.
複数のドメインを持つ蛋白質鎖が複合体を形成する場合,互いのドメインを異なる鎖間で交換して複合体化する3次元ドメインスワップ(3D-DS)現象が知られている.ドメインを交換することで異なる鎖の間に単量体と同様の相互作用を形成するため,通常の複合体に比べて強い鎖間相互作用を期待できる点で蛋白質の複合体設計に有益である.電子伝導蛋白質シトクロムc(cyt c)は3D-DSによって高次複合体を形成することが実験により知られている [1].アルコールや塩の添加により一部が変性した蛋白質が,希釈によって巻き戻る際に互いに絡み合うことで準安定な複合体を形成し,最終的に安定な3D-DS二量体を形成する.3D-DS二量体の部分構造は単量体の構造と同様の構造になっており,3D-DS複合体内部の相互作用が単量体のそれと非常に類似していることが分かる.また,結合にはヘムのディスタル配位が関与しており,前述の様に強い配位結合で相互作用していることから,3D-DS二量体の構造安定性は高い.本研究では3D-DS構造の形成過程を分子動力学(MD)によって再現・解析し,cyt cの高次複合体形成に貢献する相互作用などの要素を調べた.
本研究では,3D-DS現象はドメイン同士が一旦解離するためエントロピー的な障壁が大きくサンプリングが難しい.そのためアミノ酸をCα原子のみ(ヘムはFe原子のみ)で表現する粗視化モデルを用いて計算コストの削減を行い,大まかな3D-DS複合体形成過程を再現した.単量体構造と3D-DS二量体構造を再現するために相互作用の対称性を利用したGo-likeモデルを用いた [2].対称性とは「鎖Aのアミノ酸対(i, j)が相互作用している場合鎖A,B間でも(i, j)の相互作用が期待できる」という性質である.この方法は単量体の相互作用から複合体の相互作用を推定できるため未知の高次複合体構造に応用可能である.
計算は一辺100Åの立方体中で行い温度はT = 300 Kとした.全体で1μ秒のMDを行い,Smoothed Wang-Landau (SWL)法による高速計算を行った [3, 4].Goポテンシャル [2]の係数は1 kcal/molとし,結合長,結合角,二面角のポテンシャル係数は各々100 kcal/mol,20 kcal/mol,1 kcal/molとした.天然相互作用のないアミノ酸間には係数1 kcal/mol,平衡距離4Åのソフトコアポテンシャルを用いた.
またドメインを交換するためドメインを繋ぐループ部分の柔軟性が重要になる.そこで配列から2次構造を予測された残基番号23-29, 40-46, 70, 75-81, 86-87の結合角と二面角の係数を100%,50%‥0%と削減しサンプリング領域の変化を調べた.
【結果】MDで得られた構造に対し鎖A/Bに対するRMSD (RMSDA/B)の分布を表示したものがFigure 1 (a)および (b)である.T = 300 Kのサンプリングを行ったところRMSDA/Bの値は16Å付近を中心に分布しており,これは単量体が2つ別々に存在する状態に対応する.RMSDA/B=15∼17Åの構造でコンタクトマップを作成するとFigure 2の上半分のマップが得られ,四角の部分に鎖内コンタクトが確認できる.一方エネルギーマルチカノニカル法を用いたMDからはRMSDA/Bが5∼10ÅとT = 300 Kの構造より目に見えて3D-DSに近い構造が得られた.RMSDA/B=5∼10Åの構造から得られたコンタクトマップ(Figure 2下半分)から鎖間コンタクト(丸部分)が確認できる.これらの構造のうちRMSDが最も小さい構造と結晶像を重ね合わせると(Figure 3),3D-DS構造がサンプリングされていることが確認できる.

Sampling region of the (a) MD of T=300 K and (b) SWL-MD simulations projected on two-dimensional subspace spanned by RMSDA/B.

Contact maps obtained from samples whose RMSDA/B=15-17Å (upper-left) and that of 5-10 Å (lower-right). The rectangle and circle show respectively intra- and inter-chain contacts.

The minimum RMSD structure obtained from SWL-MD. The MD obtained structure and experimental structure are respectively shown by stick and ribbon objects. The chain A and B are colored in green and cyan.
一方ループの係数50%∼0%でのサンプリング領域をFigure 4に示す.係数100%のMDでは3D-DS構造の確率とunfold構造(例えばRMSDA/B∼20Å)のサンプル数はほぼ同程度であるが,係数を下げるとともに3D-DS構造のサンプル数が増加してゆくことが分かる.特に12.5%にすると3D-DS構造側に山ができ分布が明らかな二峰性を示し,0%の場合には3つの山(矢印)が出現することが分かる.この仮想的なシミュレーションにより,ループ領域がある程度自由に動けることが,3D-DS構造形成において有利に働くことを示している.実際に,この領域に追加のリンカーを導入することによって,cyt cの3D-DS構造の安定性が変わることが明らかになっており [5],実験とある程度対応づけが可能と考える.

Sampling region of the loop-weakend MD simulations on RMSDA/B.
本結果からcyt cの3D-DS現象は大きな構造変化を伴うためサンプリングの難度が高く,SWL法のような手法が必須であると言える.またループ部分の柔軟性が重要であり,結合角・二面角の係数が10%程度以下になるとサンプリングの領域が大きく広がることが分かった.本研究ではヘム部位の相互作用を単純化しているが,この部位にはQM/MMや高精度QM計算 [6, 7]が望ましく,今後その改良を行っていく方針である.
本研究はJST CREST「自在制御」(Grant No. JP20338388)の支援を受けたものです.未発表データ等については,共同研究者の廣田教授により提供されました.感謝申し上げます.