2022 年 21 巻 4 号 p. A29
データ科学は実験科学,理論科学,計算科学に続く第4の科学と言われ,その重要性がますます高まっています.化学の分野でもデータサイエンスの活用によって素晴らしい成果が報告されてきており,今後も取り組みがどんどん盛んになっていくことが予想されます.信州大学でも先鋭材料研究所にデータ駆動型AIラボが開設され,データ科学を取り入れた様々な化学・材料研究が推し進められています.
データ科学の特徴として,計算科学の分野の研究者だけでなく,私のような実験科学の分野の研究者が取り入れることができるという点があると思います.もともと実験ばかりをしてきて計算科学は縁遠い世界だと感じていた私ですが,機械学習に興味を持ったことをきっかけに,数年前からデータ駆動型AIラボでの活動に参加させていただくようになりました.自分の研究室に蓄積されていたデータに対して線形回帰を当てはめるところから始めましたが,現在では機械学習での解析を意識した実験計画を立てるようになっており,研究に対する考え方や取り組み方にも大きな変化が生じました.一方,今後ますますデータ科学の利用が普及していくにつれて,どんなデータを持っているかという点がやはり非常に重要になるのではないかと考えています.オリジナリティのある実験データをしっかりと集めつつ,データ科学を使ってそこから最大限の知識を得るという方針で,実験及び計算の両方をしっかりと推し進めていきたいと考えています.
データ科学を研究に取り入れたことをきっかけに,日本コンピュータ化学会にも参加させていただくようになりました.特に学生の発表の場として大変重宝しています.ポスター発表の会場で非常に有意義なアドバイスをいただいたり,精選論文集に選出していただいたりと,学生のモチベーションを高める良い機会をいただいています.今後,私のような実験分野の研究者の参加も増えていくことによって,ますます学会が発展していくのではないかと期待しています.
そんな中,2022年度の秋季大会を信州大学で開催することが決定し,古山通久先生を中心とした実行委員会が組織され,私も運営をお手伝いする機会をいただきました.学会では,特別講演2件,一般講演発表件数72件(口頭28件,ポスター44件),企業展示5件に加えて,一般公開イベントも開催され,3日間の日程を無事に終了することができました.新型コロナウイルスの感染拡大がまだ収まりきってはいない状況での開催ではありましたが,多くの皆様に長野までお越しいただきまして大変盛況に開催をすることができました.オンラインでご参加いただいた方も含め,ご参加いただいた皆様に御礼申し上げます.
コロナ禍での経験は,我々に様々な変革をもたらしました.大学でも,オンラインツールの導入によって遠隔キャンパス間での情報交換が大変手軽にできるようになりました.一方で,対面での活動が徐々に解禁されるにつれて,大学の講義にしても学会にしても,直接会って話すことの重要性を再認識しました.コロナ禍で手に入れた便利な点をしっかりと残しつつ,ポスト・コロナの時代に学会がますます発展していくことを楽しみにしています.