2024 Volume 23 Issue 3 Pages 71-74
Molecular dynamics simulation of y{(1−x)Na2O-xK2O}-(1−y)SiO2 glasses used an improved interatomic potential was performed to investigate the mixed alkali effect. The relation of self-diffusion coefficient of potassium and of sodium was improved, but the trend with x of the self-diffusion coefficient of potassium has become worse than the previous work.
Molecular dynamics simulation of y{(1−x)Na2O-xK2O}-(1−y)SiO2 glasses used an improved interatomic potential was performed to investigate the mixed alkali effect. The relation of self-diffusion coefficient of potassium and of sodium was improved, but the trend with x of the self-diffusion coefficient of potassium has become worse than the previous work.
アルカリケイ酸塩ガラスでは,アルカリイオンの拡散がガラスの粘性や絶縁性を低下させるとされている.一方で,複数のアルカリイオンが混合したガラスでは,ガラス中のアルカリイオンの移動度や電気伝導度などが低下し,ガラスの粘性や絶縁性が向上することが知られている [1,2,3].この現象は混合アルカリ効果と呼ばれ,ガラス材料の耐久性を向上する目的で応用されている.混合アルカリ効果の原理や起源を実験的に解明するのは非常に困難であり,分子シミュレーションも利用して研究が進められている [4,5,6].我々の先行研究 [7]では分子動力学(MD)計算によって,Na2O-K2O-SiO2 (NKS)ガラスの混合アルカリ効果の再現を試みたが,アルカリが一種類の0.25Na2O-0.75SiO2,0.25K2O-0.75SiO2ガラスにおいて,Na+よりもイオン半径と原子量が大きいK+の拡散係数が,Na+の拡散係数を上回った.これは実測 [8]とは異なる結果であり,改善が必要であった.本研究では,NKSガラスのMD計算に用いる原子間相互作用を見直し,混合アルカリ効果の再現を試みた.
計算対象はy{(1−x)Na2O-xK2O}-(1−y)SiO2 (0.00≤ x ≤1.00, 0.20 ≤ y ≤ 0.40)ガラスである.原子間相互作用は(1)式の二体間相互作用関数を用いた [9].
(1) |
変数(z, a, b, c, D1, D2, β1, β2)は中性子回折 [6]によって報告されたSi-OやK-Oなどのガラス中の原子間の相関距離に一致するように試行錯誤で決定した.先行研究と本研究の原子間相互作用をそれぞれIP1,IP2とし,変数の値をTable1,関数の形をFigure 1に示す.IP2の極小位置はIP1よりも深く,短距離にシフトしている.変数aNa,Kはイオン半径に準じている.Shannonらが報告したイオン半径は酸素配位数によって変化するが,Na+, K+はそれぞれ0.99 Å ~1.39 Å,1.37 Å ~1.64 Åであり,Na+よりK+の方が大きいとされている [10].IP1とIP2の両方においても,aNa, aKの値をこの関係に準ずるようにしている.IP2では8配位のときのK+のイオン半径(1.51 Å)を参考にし,IP1よりもaKの値を小さくした.MD計算は粒子数を約3000,圧力を0.1 MPaで一定とし,積算時間を2.0 fsとした.乱数を用いて,3000 Kの初期座標を用意した.冷却速度を−0.01 K / step で300 Kまで段階的に降温と緩和計算を行った.3000 K ~1500 K, 400 K ~300 Kでは50000 steps(0.1 ns)の緩和計算を行い,1200 K ~600 KのではNa, K原子の拡散挙動の解析のため,500000 steps(1 ns)の計算を行った.ソフトウェアはMXDORTO [11]を用いた.
Interatomic potential for 0.25{xNa2O - (1−x)K2O}-0.75SiO2 glasses.Broken lines show IP1 and solid lines show IP2, respectively .
拡散係数はNa, K原子の平均二乗変位(Mean Square Displacement, MSD)の傾きから求めた.MSDの計算式を(2)に示す.
(2) |
r(t)は時刻tにおけるNa,K原子の座標ベクトルであり,統計平均をΔtと全イオン数で行った.拡散係数は300 ps ≤ Δt ≤ 1000 psのMSDの傾きの平均から求めた.Figure 2に本研究で得られたMSDの一例を示す.800 K未満の温度ではNa,KどちらのMSDも線形性が低く,拡散係数を求められなかった.
Mean square displacement (MSD) of this work at 800 K. Red and blue plots show MSD of sodium and of potassium, respectively. Black lines show linear approximation of each plots in 300 to 1000 ps.
Figure 3にMD計算で得られた300 K の二体相関関数(Pair correlation function, PCF)を示す.また,Table 2にそれぞれの第一ピーク位置と実測 [6]で求められた原子間の相関距離を示す.IP2を適用した結果はIP1の場合よりも原子間距離が実測に近づいている.Figure 4にMD計算で得られた300 Kのモル体積を示す.IP1, IP2ともに実測 [12]よりも値が大きい.IP2では実測値に近づいたが,xに対する変化量の再現はIP1が優れていた.Figure 5にMD計算より得られた800 KのNa,Kの自己拡散係数DNa, DKと実測 [8]を示す.MD計算のDNaとDKの桁が実測と一致していないのは,IP2もIP1と同様であった.この原因はMD計算の計算時間と粒子数が不十分なためと考えられる.0.25Na2O-0.75SiO2ガラス中のDNaと0.25K2O-0.75SiO2ガラス中のDKの実測では,DNaがDKより大きい.IP1の結果はこの関係を満たしていないが,IP2では満たした.しかし,IP2ではDKのx変化が緩やかになり,実測のx変化を再現できなかった.yが増加するとDNa,DKは増加し,これはTeraiらの実測 [13]と同様の傾向であった.
Pair correlation function of 0.25{xNa2O (1−x)K2O}-0.75SiO2 glasses at 300 K obtrained from results b IP1 model (upper) and IP2 model (lower).
Molar volume of 0.25{xNa2O-(1−x)K2O}-0.75SiO2 glasses at 300 K. Open and solid symbols indicate IP1 and IP2 results, respectively.
Self-diffusion coefficient DNa (△) and DK (〇) in y{xNa2O-(1−x)K2O}-(1−y)SiO2 glasses at 800 K with reference data.
本研究では調整し直した二体間相互作用を用いたMD計算により,NKSガラスの混合アルカリ効果の再現を試みた.ガラス中の原子間距離とモル体積が実測に近づいたが,モル体積は変化傾向が緩やかになった.アルカリが一種類のガラスでは,Kの拡散係数がNaよりも低くなる傾向を再現したが,Kの拡散係数のx変化の傾向を再現できなかった. IP2のモル体積の変化傾向がIP1よりも緩やかであることが,Kの拡散に影響している可能性がある.このことから,原子間距離に加え,モル体積も再現するように原子間相互作用を更に調整する必要があると考えられる.