抄録
Heyd-Scuseria-Ernzerhof遮蔽クーロンハイブリッド汎関数(HSE03)を用いた周期境界条件(PBC)計算により、アナターゼ型およびルチル型二酸化チタンTiO2の電子構造を検討した。比較のため、局所密度近似(LDA)、一般化密度勾配近似(GGA)、そして従来のハイブリッド汎関数を用いた検討も行った。PBC計算では、Hartree-Fock (HF)交換項の計算がボトルネックとなるが、従来のハイブリッド汎関数に比べHSE03は近距離での打ち切りが可能であることが確かめられた。凝集エネルギーは、LDA以外の汎関数でまずまず実験値を再現することが示された。バンドギャップに関しては、よく知られているように、LDAやGGAでは40 %程度過小評価した。この過小評価は、ハイブリッド汎関数を用いることでかなり改善された。特に、HSE03では絶対誤差が0.3 eV以下となった。HSE03による構造パラメータは、LDAとGGAのほぼ中間的な値となり、実験値に最も近いことが示された。体積膨張率に関して、HSE03の結果はGGAよりも大きく、LDAと近い値を与えることがわかった。本研究により、HSE03はPBC計算のコストを抑えると同時に、通常のハイブリッド汎関数と同等あるいはそれ以上の計算精度を与えることが確かめられた。