2019 年 7 巻 p. 5-9
本稿の目的は,重症心身障害児者短期入所に携わる医療ソーシャルワーカー(MSW)の倫理的ジレンマとその課題を明らかにすることである。筆者は約一年間重症心身障害児者短期入所の病棟の担当MSWとして割当の業務にもかかわった。この経験を通してMSWが<公正>と<ケア>の間で倫理的ジレンマに陥る可能性があることを示す。MSWは人権と社会正義を基盤としながら個々のクライエントのウェルビーイングの増進を目指して課題に対応する。クライエントに対する対人援助において,臨床倫理のコアともいえる共感は欠かせない。重症心身障害児者短期入所のクライエントへの共感の根幹にはヴァルネラビリティへの共苦がある。傷つきやすいクライエントと信頼関係を構築し<公正>と<ケア>を両立しようとするからこそ倫理的ジレンマに陥る。公正の基準とケアの個別性はカンファレンスやケース検討などにより検証することが求められる。この経緯が手続き的公正に資する。