臨床倫理
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原著論文
  • ―診断早期にある糖尿病患者に焦点を当てて―
    生田 美智子, 伊藤 千晴
    2026 年14 巻 p. 5-15
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     診断早期にある糖尿病患者に焦点を当て,意思決定のための倫理教育の教育項目を明らかにするために,慢性疾患看護専門看護師および糖尿病看護認定看護師780名に自記式質問紙調査を実施した(有効回答 333名)。質問項目は文献より抽出した24項目とした。80%以上が必要であると回答した23項目は,患者の権利11項目,倫理原則5項目,インフォームドコンセント1項目,看護職のアドボカシー1項目,看護職の責任・責務2項目,医療者の協力による倫理的問題の解決2項目,看護職によるケア・ケアリング1項目であった。これらは患者の意思決定に必要な倫理教育の教育項目であると考えられた。パターナリズム1項目では,必要であるの回答は50%未満と低かった。追加項目については,患者の責務,スティグマ,シェアード・ディシジョン・メイキングなどの意見があった。今後は,教育的介入に向けて,最低限押さえるべき倫理教育のコア項目を検討することが課題である。

  • 原口 梨那
    2026 年14 巻 p. 16-29
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     本研究は,重篤な疾患をもつ児に対する治療の差し控えおよび中止に関する治療方針の共同意思決定過程において実施される看護支援と,それに関連する個人的・組織的要因を明らかにすることを目的とした。NICU勤務経験が1年以上の看護師を対象に質問紙調査を実施し回答率は24.3%であった。実施されていた看護支援としては【親の思いや価値観の理解・確認】や【児と親へのケア・環境の調整】が多く,管理職や育児経験,重篤な疾患をもつ児の受け持ち経験が関連しており,倫理的行動尺度の得点が高いほど【親の思いや価値観の理解・確認】の支援が多かった。組織的要因では,病床数や病院の種類,倫理的風土尺度の得点が高いほど【治療方針決定のための話し合い】の支援が多かった。看護師個人の倫理的行動を高め,親の状況や思いを考慮した職種間の話し合いを促進することは,NICUにおける良好な倫理的風土を形成し,看護の質を高める可能性がある。

  • 竹下 啓, 角田 ますみ, 戸沢 智也, 箕岡 真子, 青墳 信之, 秋葉 峻介, 稲葉 一人, 岩蕗 かをり, 片山 賀波子, 河原 直人 ...
    2026 年14 巻 p. 30-51
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     医療の方針決定等における本人以外の関係者の関与についての運用を調査するため,2025年7月に全国の病院から無作為抽出した1,000施設を対象に質問紙調査を行い,107施設の回答を得た。意思決定能力のある成人への待機手術でも半数超の施設が同意書に家族等の署名を原則として求め,その意味づけは多義的だった。本人が同意しても配偶者が反対する場合,約1/4が手術を見送ると回答した。代理意思決定者の選定では,法的関係,事前の指定,本人の考え方や価値観等の理解がとくに重視されていた。意思決定能力がなく,かつ,関係者の同意が得られない場合,必要な医療行為を実施しないと回答した施設も存在した。ほとんどの病院で入院時に保証人や身元引受人を求めており,経済的な保証以外の役割が期待されていた。今後,代理意思決定者や保証人等の役割を整理するとともに,患者の関係者がどのように医療の方針決定に参画するべきかについて検討する必要がある。

実践・事例報告
  • ―転帰が異なった2症例の振り返りから―
    齋藤 朝子, 簡野 宗明
    2026 年14 巻 p. 52-61
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     神経性やせ症(anorexia nervosa;AN)のなかでも,とくに重度で慢性化した病態は,重症遷延性神経性やせ症(severe and enduring anorexia nervosa;SEAN)と呼ばれる。SEAN患者は,極度の衰弱により救急搬送を契機に強制治療が行われることがあり,その適用には法的および倫理的な課題が生じる。本研究では,救命可能性が低い状況から異なる転帰を迎えた2名のSEAN症例を通じて,看護師が直面した倫理的葛藤を倫理原則に基づいて分析した。その結果,①救命治療か緩和ケアかをめぐる葛藤,②患者と家族の不同意による不十分な治療の葛藤,③治療抵抗性と医療体制における葛藤の3つの主要なテーマが明らかとなった。これらの葛藤はSEAN治療における不確かなエビデンスや価値観の対立,医療体制の未充足によるものと考えられた。また,看護師が倫理的葛藤を保持し,批判的内省を通じて患者・家族・医療者間の価値観の対立を調整することにより,協働的意思決定を推進する役割を担うことができる可能性が示唆された。

資料論文
  • ―「医療・ケアにおける代理意思決定者に関する提言」のためのワーキンググループでの議論から―
    戸沢 智也, 竹下 啓, 角田 ますみ, 箕岡 真子, 青墳 信之, 秋葉 峻介, 稲葉 一人, 岩蕗 かをり, 片山 賀波子, 河原 直人 ...
    2026 年14 巻 p. 62-76
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,医療機関における代理意思決定とその手続きに関する課題を日本臨床倫理学会ワーキンググループの議論から明らかにすることである。ワーキンググループ構成員を対象に,4つの仮想事例を用いたグループディスカッションを行い,逐語録を用いて質的に分析した。その結果,入院時保証人の条件や役割,治療方針の話し合いに同席する人,同意書への署名の扱いなど,代理意思決定をめぐる実務にいくつかのばらつきが認められた。とくに緊急・準緊急手術で患者に意思決定能力がない場合には,誰を代理意思決定者とみなすか,署名を必須とするかについて見解が分かれていた。代理意思決定者には法的続柄よりも本人の価値観や生活への深い理解が求められる一方,その選定や家族内調整が倫理的ジレンマとなることが示され,用語と役割の整理とともに,緊急性や治療目標に応じた,柔軟で透明性の高い意思決定プロセスの整備が必要と考えられた。

その他(報告論文)
  • ―東京都23区の居宅介護支援事業所に勤務する介護支援専門員を対象とした質問紙調査―
    藤原 道子, 石山 麗子, 鈴木 善雄
    2026 年14 巻 p. 77-89
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     本調査では,①施設入所の検討・決定において認知症が要因で家族等の関与が大きい回答がみられたこと,②居宅側が重要と考える連携情報と施設側から求められる情報項目に差がみられたこと,③直近1事例の振り返り(Group’s SDM参考尺度)では価値観の共有や選択肢の比較に関する項目が相対的に低い傾向が示唆されたこと,が明らかとなった。

     これらの知見は,要介護高齢者の施設入所における意思決定支援に関連する連携の現状の一端を示すものである。とくに,本人の意思の反映を支えるための情報共有のあり方,家族の介護負担が強い状況下での意思確認の方法,価値観や選択肢を共有する話し合いのもち方について,現場で検討すべき論点が存在する可能性を示している。今後,施設側や医療職等の多職種を対象とした調査,および質的研究等を通じて,意思決定支援に資する連携の具体的なプロセスを明らかにしていく必要がある。

その他(論考)
  • ―非医師による医科病理診断行為の倫理的検討―
    井川 卓朗
    2026 年14 巻 p. 90-97
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     治療の起点となる診断という医行為については,患者が実質的診断主体を知ることが困難な構造的問題があり,倫理的検討がいまだ不十分である。医師法は,医師でなければ医行為を業として行ってはならないと規定しており,その該当性は形式ではなく実質的内容に基づいて判断される。しかし,患者と直接接触することのない病理診断領域においては,非医師である歯科医師が報告書の「下書き」や「コンサルテーション」などの形式を用いて,医科領域の病理学的判断に実質的に関与する事例が継続的にみられる。こうした行為は,法倫理の観点から幾つかの問題点を有している。本稿では,病理診断の制度的位置づけの歴史的経緯,病理専門学会の対応,他科領域の制度的対応との比較を通じて,現行制度の曖昧性を検討する。さらに,専門職の職域分化だけでなく,患者への説明責任という観点から,病理診断における実質的診断主体の制度的明確化と倫理的再定位の必要性を提言する。

  • 森山 学
    2026 年14 巻 p. 98-104
    発行日: 2026/03/31
    公開日: 2026/10/01
    ジャーナル フリー

     臨床的惰性(clinical inertia)は,Phillipsら(2001)によって「治療目標が未達であるにもかかわらず,医療者が治療の開始や強化を行わないこと」と定義された概念である。近年,この現象は医療者の診療行動に起因する単なる不作為としてとらえるだけでなく,臨床的近視(clinical myopia)や臨床的虚無主義(clinical nihilism)といった認知的態度とも深くかかわることが指摘されている。臨床的惰性を臨床倫理の観点から再検討し,自律尊重・善行・無危害・正義といった倫理原則との関連を明らかにすることにより,患者の自己決定や意思決定支援の不足など,どの部分が臨床倫理的に臨床的惰性に直結するかを示し,臨床的惰性を克服するために必要な方策として,医師の教育,共同意思決定(shared decision making;SDM),患者アドヒアランス支援の重要性を提起する。臨床的惰性を単なる診療上の課題にとどめず,倫理的検討の対象として位置づけることにより,医師の意思決定プロセスそのものに内在する倫理的脆弱性を示した。

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