抄録
本報は曩に第1及び第2報に報告したるステアタイト試製條件の繼續實驗結果を報告したるものにして其の要點を摘録すれば次の如し。
(1) 天然滑石粉に〓燒苦土又は死燒苦土を加へ苦土と珪酸との分子比を2MgO:SiO2, 3MgO:2SiO2, MgO:SiO2に相當する様に調合したる試料を以つて1400℃及び1450℃に6時間燒成したるものの性状を比較試驗して天然滑石の儘よりは此の2MgO:SiO2又は3MgO:2SiO2の調合物が強度其他優良なる結果を與へたり。
(2) 燒成温度を從來の成書等には900-1000℃附近にても可なる如く記載されたるに對し前節迄は1400℃迄高め更に1450℃に到らしめたるものは900-1000℃燒成のものに比し燒成收縮を稍大とするも其の他の強度, 氣孔率等は1400-1450℃燒成のものの方優良なる結果を得たり。
(3) 成形壓力を300kg/cm2より400kg/cm2 500kg/cm2, 或は600kg/cm2迄高めたるものは燒成温度を1400-1450℃に高めたるものと共に最も效果的な條件なることを確め成形壓力を充分に大にすれば燒成收縮を3-5%以下或は更に2-3%以下になし得べし。
(4) 燒成時間を2時間より6時間, 8時間, 時には24時間迄延長したる結果は充分優良なれども成形壓力の上昇, 燒成温度の上昇程には有效ならざるものの如し。然し滑石の儘にては燒成温度を1450-1460℃以上に上ぐることは滑石中の酸化鐵其の他の含有量に依り軟化, 熔融の温度に接近して充分安心を以つて加熱することを得ず。
(5) 朝鮮産の滑石塊から試驗片を彫り拔いた刻成品と其の屑滑石を粉碎したるものより前節迄の條件にて加壓成形したるものとを燒成して比較試驗したり。刻成品は1000℃燒成にても其の層状組織に依り龜裂を生じ膨脹して到底優良なるものを得難し。從つて粉末を以つて加壓成形することに依りてのみ優良なる結果を得らるべし。
(6) 成形水量は5%迄減少し其の結果燒成收縮を4-5%迄減少したり。更に目下試驗中のものは全く水を加へず乾式成形に依り優良なる結果を得つゝあり。又天然産滑石, 蛇紋岩に苦土, 珪酸を増減して苦土と珪酸との分子比を異にせるもの或は其の他礬土, 石灰等の各種の混合物の添加た依りて如何なる結果を得べきや目下各種の比較試驗中なるを以つて次報以下に其の結果を報告すべし。
(7) ステアタイトの電氣的性質の測定に使用する試料を試製中なるも未だ滿足なる結果を得ず。又電氣的性質の比較試驗も豫備的試驗の域を脱せず。是等は後日好適なる試驗片の成形燒成に成功して之に着手せんとす。又ステアタイトの熱膨脹, 耐火性, 熱間荷重軟化等の主として熱的性質の比較試驗も目下續行中なるを以つて後日の報告に讓る。
終に本研究費の1部は日本學術振興會の補助に依りたり。茲に記して深甚なる謝意を表す。