窯業協會誌
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準安定相炭酸バリウムの生成と性質
西野 忠西山 秀作
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1967 年 75 巻 866 号 p. 294-300

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抄録

先の速報 (窯協, 74, 335 (1966)) にひきつづき, 炭酸バリウム (BaCO3) の新準安定相の生成と性質について, X線分析, 熱分析, 電子顕微鏡観測, 熱膨脹, 電気伝導度, 比重, BET面積の諸測定などにより詳細に検討した. BaCO3に酸化クロム (III) を少量添加して, BaCO3, のγ(斜方晶)-α(六方晶) 転移温度 (約800℃) で加熱し, 急冷することにより未知の結晶相が生ずる. この新相をδ相と命名した. δ相は酸化クロム (III) の代りに種々のクロム酸塩, 硫酸塩または燐酸塩 (表-1) を用いた場合にも得られる. δ相はこれら添加剤がBaCO3の結晶転移 (高温型α→低温型γ) 時に固溶したものと考えられ, その比重は4.36で, γ型の4.55よりも低く, イオンの充填率に差異があることを示している. そして, δ相は再加熱, 水との接触, あるいは数分間摩砕することにより容易に室温安定型 (γ) に転移するような準安定的性質をもっている. 双子型微少熱量計を用い, 既知量のδ相粉末を水25ml中に投入することにより求められたδ→γ転移熱量は8.5cal/g-BaCO3で, γ→α転移熱 (18cal/g) の約1/2に相当することが認められた. また, δ相の示差熱分析曲線には500℃近くに吸熱現象があり, その後, 発熱してγに転相する (図-4). 吸熱異常が, 昇温速度 (図-5), 添加剤の種類 (図-6) に依存しないことなどから, BaCO3中のCO32-イオンの回転と密接な関係をもっものと考えられた. このことは同時に, δ→γ転移の前後において, 異常な膨脹, 収縮が観測され (図-7), イオンのmigrationによる格子の再編成の過程として理解された.
δ相の水蒸気との接触, 水中浸漬などによるγ相への転移は外形的にも著しい変化が認められ (写真-3, 4, 5), この転移に対する水の砿化作用として, 分子が小さく, かつ, 誘電分極の大きい水がδ相粒子表面に吸着し, Ba2+-CO32-イオン間結合力の弛緩をもたらすためと考えた. もちろん, 本質的には, Ba2+イオンの分極能が小さいことが原因している.

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© The Ceramic Society of Japan
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