2022 年 46 巻 p. 48-53
筆者らは、一児の 0 歳から 6 歳までの縦断的発達過程の中で幼児前期における要求表現にみる葛藤克服方略の現象を「迂回」と捉えた。本研究では、その原点に立ち返り迂回概念の検討を行う。それには、出発点として約 100 年前にチンパンジーの「迂回」現象を明確にしたケーラーの『類人猿の知恵試験』に学ぶことが重要だと考えた。動物の場合には、瞬時判断して欲求である食べ物を迂り道して取りに行くが、子どもの場合には食だけではなくコミュニケーション欲求に基づいて大人との関係を迂り道を使って操作し自己の要求を実現しようとしている。しかし、共通しているのはどちらも欲求に基づく知恵としての要求表現(欲求と要求の違いは注 3 参照)であることが分かった。チンパンジーの迂回と人間の幼児前期にみられる迂回が共通していることが分かり、幼児前期の迂回概念の本質の一側面が明確になった。