2025 年 10 巻 p. 1-22
本稿は,英語のnot to mentionが,名詞句補部を伴い「~は言うまでもなく」や「それに加えて〜」という接続詞的な意味機能から,名詞句補部を伴わない独立した形で,後続部分で情報の追加や詳述が行われることを合図する談話標識(Discourse Marker)としての機能を発達させつつあることを,共時的コーパスからの用例に基づき主張する。また,談話機能の発達の要因が,名詞句補部を伴う用法が,独立した節の文頭位置に使用されることによるものであることを,通時的コーパスからの用例の分析と,同じように,追加・詳述の意味機能を持つin additionの談話標識用法の通時的発達との比較を通して論じる。最後に,談話標識の発達に関する最近のさまざまな研究のなかで,この現象がどのように捉えられるかについて簡単にふれる。