2025 年 10 巻 p. 23-39
本論は,現代日本の街中で観察される禁止看板における図像と言語表現との関連性を分析する。看板などのマルチモーダルなテクストを対象とする研究は,これまでも認知言語学など複数の領域で行われてきた。しかし,この種のテクストでは図像と言語表現が一体となって全体が構成されるにもかかわらず,両者の関係を考察した研究は管見の限り見当たらない。そこで本論は,図像と言語表現が表面上は一致していない事例に着目し,両者の関連を比喩による多義記述の方法を用いて分析する。その結果として,看板に図示された人やモノは,(i)禁止の対象行為の〈行為者〉や〈対象〉などをメトニミー的に表す,(ii)シネクドキによる限定/敷衍を受ける場合がある,という二点を明らかにする。また,比喩による意味記述の方法論がマルチモーダルテクストに対する新たな分析の可能性を拓くことを指摘し,異なるモダリティ間の関連づけを比喩的認識が動機づけるという理論的示唆を与える。