抄録
気管切開術後に約1%の頻度で起こるとされる致死的合併症である気管腕頭動脈瘻の1例を経験した. 予後はきわめて不良であり治療には大がかりな血管形成術などを必要とする. 治療がなされなければ救命されることはない. 気管腕頭動脈瘻は気管切開チューブやカフによる圧迫が気管と腕頭動脈壁の損傷をきたし, 瘻孔を形成し発生する. 脈管系の解剖学的変位などの要素も関与するため完全な予防は不可能であり, 気管切開術後は常に発生の危険が伴う. 発生頻度を低下させるには, 下位気管切開の回避, 気管切開チューブの適正なカフ圧管理, 腕頭動脈の走行確認などが肝要と思われた.