非常に稀な頭蓋内原発T細胞型悪性リンパ腫を報告した.症例は64歳,男性で,左片麻痺と痙攣を主訴に来院.MRIにて右運動前野に,脳表に接して周囲に浮腫を伴う,強い増強効果を受けるmassが存在した.当初転移性脳腫瘍を疑い,全身検索を行ったが,多臓器病変は認められなかった.手術にて可及的に摘出した.組織は壊死傾向の強い悪性リンパ腫の所見であった.免疫組織化学染色にてUCHL1が陽性で,かつL26に陰性であった.50Gyの放射線局所照射と,ステロイドの投与を行ったがまったく効果がなかった.頭蓋内原発悪性リンパ腫は,ほとんどがB細胞型で,T細胞型は過去29例の報告があるのみである.本例は脳表に接して存在し,悪性の転機を辿った点で,T細胞型悪性リンパ腫の典型例であった.今日ステロイド試験投与による診断がなされるケースも報告されているが,本例のごとく組織型によって治療効果の異なる群も存在することより,手術あるいは生検によって,正確な組織診断を行ったうえで治療することによって,さらなる病態・治療法の進歩が得られるものと考える.