2008 年 61 巻 2 号 p. 62-70
家族性大腸腺腫症(familial adenomatous polyposis, FAP)にともなった甲状腺乳頭癌の1例を経験した.症例は,25歳女性.母方がFAP家系.21歳時,非密生型FAPに対し予防的結腸切除が施行され,その後定期的にfollow-upを受けていたところ,甲状腺両葉に各々1個ずつの癌が確認され,甲状腺全摘術を施行した.組織学的には,いずれの腫瘍もcribriform-morula variant of papillary thyroid carcinomaであった.末梢血と甲状腺組織からDNAおよびRNAを抽出し,APC遺伝子異常を検索したところ,germline mutationはcodon917 GAT→GAのTのdeletion,右甲状腺癌ではcodon 728 AAT→ATのAのdeletionを示すsomatic mutation,左甲状腺癌ではintron 14がsplicingされない異常を認めた.本症例はFAPに随伴する甲状腺癌が,APC遺伝子の2ヒットにより多中心的に発生することを示唆する貴重な症例である.