抄録
結腸には種々の潰瘍性病変を認めるが,S状結腸軸捻転症における潰瘍形成についての詳細な記載は少ない.当院外科における成人の機械的腸閉塞103例(昭和46年~51年)のうち本症を9例経験した.そのうちの2例においてS状結腸に潰瘍形成を認めた.両者とも長軸に沿い,前者においては腸間膜付着側に線状潰瘍と瘢痕を認め,後者は孤立性,長さ約10cmであった.病理学的には,粘膜下の浮腫と細胞浸潤を認め,そのうえ前者には著しい静脈うっ血を認めた.腸潰瘍の原因のひとつとして血管性因子が考えられているが,動脈系を重視する場合と,静脈系を重視する場合とがある.本症の病態変化として,静脈還流障害,動脈に先行する静脈の閉塞などが報告されている.我々の経験したS状結腸軸捻転症において,腸間膜側に形成された潰瘍は静脈うっ血が原因かも知れない.そして他の疾患における結腸潰瘍も同様の機転で発生する可能性がある.