抄録
教室で経験した直腸潰瘍を再検討したところenema tubeによると思われる直腸潰瘍16例が含まれていた.これら潰瘍は大きさ数mmから2.Ocmで,線形,円形,点状,不整形等の種々の形を示したが,潰瘍周囲の腸管軸に平行する発赤帯を有するものが多かった.潰瘍の部位に前後壁の差は無く,注腸検査から大腸ファイバースコープ検査までの期間は平均約6.5日間で,注腸時使用したenema tubeは大部分が市販のプラスチック製の硬いものであった.潰瘍辺縁からの生検で3例に組織学的にバリウム様結晶が観察された.バリウムの毒性は弱く,直腸粘膜の機械的損傷が一次的原因と考えられる.これら潰瘍の診断は比較的容易と思われるが,少数に周辺隆起を伴うものがあり,又非特異性直腸潰瘍と診断される可能性もあり,診断は慎重でなくてはならない.又注腸検査時のenema tubeの挿入は正しい方向へ注意深く行う必要があり,軟性チューブの使用が望ましい,