抄録
soilingを主訴に来院し, 直腸肛門内圧検査で肛門内圧が低値を呈した成人男性患者に対し, ジアゼパムを使用して症状を改善し得たので報告する.症例は、62歳の男性で, 9ヵ月前より昼間仕事中の便もれを主訴に来院した.soilingの原因の検索では, 直腸肛門内圧検査で最大静止圧, 最大随意収縮圧の低値を認める以外著変は認めなかった.軽度の内痔核に対し治療を行い, soilingの頻度は減少したがsoilingは持続した.便を硬化させるsoilingの保存的治療を行ったが改善は見られなかった.排便記録より, 精神的影響によりsoilingが増悪する傾向がみられたため, スルピリドを使用したが改善はなかった.バルプロ酸ナトリウムも使用したが改善せず, 抗不安薬で中枢性筋弛緩剤であるジアゼパムの使用により症状は消失した.ジアゼパムの作用機序は不明であるが, 内肛門括約筋のGABA受容体への直接刺激や, 中枢性の筋弛緩作用に関連した機序が考えられた.