2001 年 54 巻 7 号 p. 489-492
骨盤内への放射線治療は,しばしば放射線腸炎を引き起こし,時に難治的な下血により大量の輸血を必要とする場合がある.著者らは,放射線直腸炎の晩期障害に対し,サラゾピリン,ステロイド投与などの保存的治療に抵抗し,下血を繰り返し大量の輸血を要した患者に,エカベトの注腸投与を行い炎症の改善を得た症例を経験したので報告する.症例は,66歳の男性で,膀胱腫瘍に対し,65.2Gyの放射線治療を受け,照射後15カ月後より下血を認めるようになった.貧血のため入院し,禁食,サラゾピリン,ステロイドの投与により一時的に炎症は改善したが,食事を摂取しての外来通院では,下血と輸血を繰り返した.放射線直腸炎の晩期障害に対しエカベト1gを50mlの微温湯に混濁し,1日2回注腸投与により,食事を摂取しているにもかかわらず炎症の改善と貧血の進行が抑えられた.今後,本療法が放射線直腸炎の新たな治療法となる可能性もあり報告する.