抄録
永久気管孔を有する冠動脈三枝病変に対し,左側方開胸による冠動脈バイパス術を施行した1例を経験したので報告する.症例は71歳,男性.57歳時に喉頭癌に対して喉頭全摘術,永久気管孔作成術を施行された.今回,労作時胸部圧迫感と呼吸苦,夜間起坐呼吸を主訴に近医を受診し,虚血性心疾患に伴う心不全の診断で当院循環器内科に紹介され入院した.冠動脈造影検査にて,#1 90 %,#2 完全閉塞,#7 90 %,#9 99 %,#12 99 %,#13 90 %と三枝病変を認めたため,手術目的で当科に紹介された.右冠動脈は低形成で末梢部は細く,左前下行枝,対角枝,鈍縁枝に対する冠動脈バイパス術を行う方針とした.永久気管孔を有する症例であり術後の縦隔炎を危惧し,左側方開胸アプローチを選択した.手術は右半側臥位で左右分離肺換気を行い,左側方開胸下に体外循環非使用心拍動下冠動脈バイパス術を行った.左前下行枝に対するバイパスは左内胸動脈を用い,鈍縁枝,対角枝には胸部下行大動脈をinflowとして大伏在静脈を用いた.術後の経過は良好で,術後17日目に軽快退院した.