抄録
炭素鋼や低Cr鋼(Cr含有量が1~5%)の耐CO2腐食性に及ぼす金属組織の影響を明確にするために,金属組織の異なる炭素鋼及び低 Cr 鋼を用いて,60℃又は80℃の湿潤CO2環境で浸漬試験を行い,腐食挙動と金属組織の関係,および腐食挙動と腐食生成物構造の関係を調査した.その結果,炭素鋼では,フェライト・パーライト組織の方がマルテンサイト組織よりも耐局部腐食性が向上することが分かった.これは,パーライト中の層状Fe3Cによって,一次腐食生成物の緻密さや密着性が良好になるためである.一方,低Cr鋼では,マルテンサイト組織の方が,耐CO2腐食性が向上することが分かった.この結果から,低 Cr 鋼では,均一な金属組織上に耐食性に優れた一次腐食生成物が形成されると考えられた.さらに,Cr含有量が3%以上の低Crマルテンサイト鋼の腐食減量は,炭素鋼の約1/4になることが分かった.3%Crマルテンサイト鋼上に形成された一次腐食生成物は,ダークグレイ相とライトグレイ相の二層構造をしており,Cr濃化量の高いダークグレイ相が主に腐食保護膜として働くと考えられた.ダークグレイ相中のCr濃化量が充分大きい(母材のCr量の10倍以上)ため,3%Crマルテンサイト鋼の耐CO2腐食性は,C含有量や焼戻し温度の影響を受けず安定していることが分かった.