酸素が電解質溶液の薄膜を移動する過程は,大気中の酸素が電解質溶液薄膜に溶解する過程と電解質液膜中を拡散する過程から成る.その移動速度Jは,J=1/(aδ+b)で表せる.ここでδは電解質液膜の厚さ,a,bは電解質溶液の濃度に固有の値である.aは酸素の拡散係数に逆比例する.bは酸素の液膜への溶解速度に由来し,これを0と置けば,JはFickの拡散式になる.電気化学セルを用いて,Jを酸素還元の限界電流密度ilimとして計測し,塩化ナトリウム水溶液の各種濃度におけるa,b値を求めた.これを用いて,鉄の濡れ腐食速度がilimに等しいと仮定して,電解質液膜の膜厚と濃度が連続的に変化する乾燥過程の鉄の腐食速度をシミュレーションしたところ,文献の挙動とよく一致した.