抄録
栽培品種の遺伝的背景における遠縁種由来の有用農業形質の評価は戻し交雑集団を用いると効率的である.そこで本研究では,まず野生イネ系統O.rufipogon W630を栽培イネ品種Oryza sativa Japonica NipponbareおよびIndica IR36でそれぞれ戻し交雑し,自殖を繰り返した159および170系統からなるBC2F8世代の系統群を育成した.これらよりDNAを抽出し,ゲノムをカバーする約180のマイクロサテライトマーカー座の遺伝子型を調べたところ,ほぼホモ型に固定していた.次にこれら系統を用いて,湛水条件下における葉鞘の伸長程度に基づき、湛水回避性に関するQTL解析を行ったところ,3つ(第2,3,10染色体上)および2つ(第3,4染色体上)のQTLがそれぞれNipponbareおよびIR36の遺伝的背景の自殖系統群で推定された.これらのうち,それぞれ1つの遺伝子座において,野生種の対立遺伝子が湛水条件下での葉鞘を伸長させる効果を持っていた.検出された野生種の対立遺伝子は,洪水地帯における直播栽培に適したイネの改良に有用であると考えられた.