抄録
近年の交配育種においてはマーカー育種法やゲノミックセレクション法などの進展により多数の交配後代個体から目的のゲノム組成を持つ個体を選抜する効率が飛躍的に向上したが,減数分裂期組み換えの位置や変異誘発の頻度を積極的に制御する試みはほとんど行われていない.減数分裂期組み換えはゲノム中で限られた領域(ホットスポット)に集中しているため,ホットスポット以外の領域に組み換えを誘導する技術の確立は効率的な作物育種にむけた重要な課題の一つである.組み換えが起きないゲノム領域はDNAの局所的な「固さ」と関係していることが知られており,この固さを決める要因がエピゲノムと呼ばれるDNA-ヒストンタンパク質複合体の化学修飾である.本稿では作物への有用形質付与を目的としたゲノムの構造・機能の改変を効率的に行う手段として,従来の方法とは異なるエピゲノム制御の観点からのアプローチを紹介する.