2022 年 44 巻 4 号 p. 27-41
本稿の目的は,数学者・遠山啓による知的障害児教育論の内実を,東京都立八王子養護学校における教科教育実践に即して明らかにすることにある。今日,遠山の事績は,戦後教育界に多大な影響を与えたものと評価されている。先行研究では,教育界における遠山の事績は算数・数学教育分野に特化して語られることが多い。ただ,1960年代末から,彼は八王子養護学校における教育実践に関与し,障害児を対象とする教科体系の創出に貢献していた。本稿では,遠山の知的障害児教育論の検討を通して,①知的障害児を対象に,算数・数学教育分野の教科教育内容を足場として,1968年から1972年頃までの間に“原数学”の構想が形成されたこと。②1970年代前半以降,障害児固有の論理を構築するというよりも,青少年全般の問題として能力主義批判が語られたこと。③知的障害児教育の知見は統合教育を志向するものであったこと。以上の論点を明らかにした。