我が国においては教育分野の研究倫理に関する議論が諸外国と比べて十分に行われておらず,日本教科教育学会を含む多くの教育系学会は研究倫理規程を示していない。このような現状の改善に向けた第一歩として,本研究では子供を対象とした教科教育研究を実施する上での研究倫理問題について整理し,教科教育研究を行う上で何を検討する必要があるか,どのような倫理上の問題が残されているかを示した。また,理科教育研究に固有の研究倫理問題の事例を示すことを通して,各教科の研究に固有の研究倫理問題が存在する可能性を指摘した。
本研究は,高等学校の評論文教材の特性を踏まえて,学習者が自らの「推論的読み」をどう意識化するのか,実践を通じて学習者の「読み」の過程を明らかにし,特に評価の場面で方略の意識化を促す授業を開発することを目的とする。授業では,推論を必要とする問いに対して学習者が回答した詳述の典型例を基に,学習者自身がルーブリックの記述語を作成し,そのルーブリックを用いて詳述を相互評価する活動を構想した。実践の結果,学習者の「読み」の深まりは精緻化推論によって差が生じることが明らかになり,評価場面においても同様であることが分かった。実践を通じて,学習者を評価の主体者とする授業が,方略を意識化し,他者の「読み」によって自己の「読み」を相対化し,メタ認知モニタリングを活性化するのに有効であることが明らかになった。
本研究はALT(AssistantLanguageTeacher)との交流研修を実施し,日本人教師がいかにALTを介して異文化理解の視点を取り入れるようになったか,その変容をインタビューの分析を通して明らかにすることを目的とする。調査は5名の教師に半構造化インタビューを実施し,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を基に分析した。その結果,以下のことが明らかになった。1つ目は,授業者が【ネガティブな思考を内省】することで,授業以外でALTと関わりを増やそうとしたことである。2つ目は,授業者のALTや異文化に対する関心が増し,互いに本音を言い合い,リスペクトし合うことで【ツーカーの関係性を醸成】したことである。3つ目は,授業内において【即興的な対話が増え】,ALTが自発的に自国の文化を紹介するなど,ALTが自身の強みを発揮しようとする場面が見られるようになったことである。
本研究は,教科教育学一般の記述と体系化の可能性と意義をめぐってドイツにおける教科教授学のメタ学問としての一般教科教授学の成立過程と学術的特色を明らかにすることが目的である。ドイツにおける一般教科教授学の成立過程を制度的・経済的・組織的条件から捉え,続けて,学術的任務に関して,選択-還元-変形のプロセスに着目して検討した。続けて,一般教授学との対比を通して一般教科教授学の学術的射程の特色と盲点を示した。終わりに,本研究の成果から,教科教育学一般の記述と体系化にむけた課題と展望を整理した。
社会情勢に鑑み,リスク評価等に資するとの考えから,学校数学において言語による確率表現(言語確率)を学習対象にすることが諸外国で訴えられている。わが国でも数学科で学習開発が進められているが,言語による表現である以上,国語科としてのアプローチも同様に求められる。それによってこそ,先行研究の課題の超克としての,①「方向性」という性質に着目でき,②「事態確定性」と「認識確定性」の側面が確率に含まれていることを自覚でき,③現実社会での言語確率の運用を捉えられる学習が開発されると考えられる。そこで本稿では,中学校1年生を対象に,現実社会での言語確率の運用を扱うために『現代日本語書き言葉均衡コーパス』の用例を活用し,「方向性」,「事態確定性」と「認識確定性」という性質の理解を目指す学習を開発するとともに,その成果を検討することを目的とした。結果,多くの学習者がそれらの性質に着目した考察を行うことができた。
本研究は,読むことの学習における実践共同体の発展を促す評価方法について,実践に基づいて考察することを試みるものである。実践共同体の基本構造の要素が認められる共同体を対象に,実践における対話を核とした評価とフィードバックの分析と考察を行った。その結果,(1)実践における評価とフィードバックが,実践共同体の基本構造の要素にはたらきかける機能を有していたこと,(2)評価方法として,学習者の読む行為を共同体全体の行為としてフィードバックすることが重要になること,(3)評価方法が機能するために,協働学習を成立させる学習指導の工夫が必要であること,(4)実践共同体の読み手は知識だけでなく他者と読みを広げ深める上で重要な情意を持ち合わせていることが明らかになった。読むことの学習において実践共同体を単位に評価することは,他者と読みを吟味し合う共同体の形成を支えるだけでなく,一人ひとりの学習者の読みを支援するものとなる。
本研究は,英語教育における小中連携の成果と課題を整理することを目的に,2010年以降の研究を対象としてスコーピングレビューを実施した。17件の文献を分析した結果,研究対象校の多くが研究開発学校や国立大学附属学校など特別な条件下にあり,一般公立学校の状況とは異なることが確認された。連携内容の分析からは,これらの先行研究が「情報交流」や「カリキュラムの設定」など,より踏み込んだ連携内容を中心に報告してきた傾向が明らかになった。また,学習者の情意面での成長が多く報告される一方,指導・カリキュラムの充実に関する課題が挙げられた。文献を除外する過程からの示唆として,小中連携について理解が十分ではない状況も垣間見えた。今後は,小中連携を主要な研究対象とし,持続可能な制度設計の構築と成果や課題の精緻な分析を進めることで,公立学校に適応可能な小中連携のモデルを確立することが期待される。
本研究では,中学校及び高等学校の体育におけるポジティブ及びネガティブな感動体験の実態について,体育好意群と体育非好意群の比較を中心として,事例的に明らかにすることを目的とした。目的の達成のために,大学生を対象とした体育における感動体験についての質問紙調査を実施した。その結果,体育におけるポジティブな感動体験は,技能の向上といった成果に関する体験,ネガティブな感動体験は,体育授業で行う種目や雰囲気などの授業内容・体育特性に関する体験が最も多いことが明らかになった。また,体育において,保健体育教師の役割が非常に重要であり,生徒との良好な関係構築をし,生徒が体育・運動を楽しいと感じられるようなより良い体育を行うことが求められることが示唆された。
本稿は,教職課程履修学生による複数教科の教員免許状の取得状況を把握することを目的とする。日本全国の都道府県教育委員会を対象に,教育職員免許法別表第1に基づく中学校教諭一種免許状の令和4(2022)年度授与実績について調査を実施したところ,次の3点が明らかとなった。①中学校教諭一種免許状取得者の全体数に占める複数教科の教員免許状の取得者数の割合は,どの自治体も10%を下回っている。②免許教科の偏りがある。いわゆる5教科で複数教科の教員免許状を取得する者の数に対して,美術・音楽で複数教科の教員免許状を取得する者の数が少ない。③免許教科の組合せの偏りがある。数学×理科,国語×社会の組合せで教員免許状を取得する者が多いことに表れているが,免許教科は文系教科・理系教科の枠組みのなかで決定される傾向にある。