本稿の目的は,戦後日本の学校体育の成立過程において,「冬季体育」に対する体育教師の指導の内実を「ゲートキーピング」に着目して明らかにすることである。その際,1950年代から 1960年代の雑誌「体育科教育」における「冬季体育」に関する記事を分析対象とした。「冬季体育」の問題は,降雪雨によって施設が制限されるという問題と,寒さによる子どもの運動意欲の低下という問題の二つに整理することができた。そして,施設の制限の問題に対しては,校庭,体育館,教室を利用するそれぞれの場合に応じた対処方法が確認できた。校庭を 利用する場合は,校庭の雪上の使用と校庭の水はけをよくするという二つの方法が確認できた。 体育館を利用する場合は,体育館で実施可能な運動の選択,限られた空間の効率的な利用,学習形態の工夫という三つの方法が確認できた。教室を利用する場合は,限られた空間の効率的な使用と実施可能な運動の選択という二つの方法が確認できた。子どもの運動意欲の低下の問 題に対しては,防寒着の着脱,身体活動量を増やす授業づくり,そして基礎技術の習得を意図 した授業づくりの三つの対処方法が確認できた。さらにこれらの対処方法は,「冬季体育」の問題への対策として授業の内容及び方法の次元で考えられたものであったが,「冬季体育」に積極 的な意味を見出す対処も採られていたことが確認できた。具体的には,防寒着の着脱を通した自己管理能力の育成,運動の知的理解の促進,そして授業の肯定的雰囲気づくりの三点である。 これらは,「冬季体育」の問題への目標,方法の次元での積極的な意味づけによる対処であった。これらの取り組みは,どのような環境でも体育授業を成立させようとする試みであり,戦後日本の学習指導要領を介した「教育機会の均等」という理念の実現を支えた具体的な取り組み と解釈することができる。さらに,環境要因を前提とした体育授業のあり方も検討していく必 要性を示唆した。
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