日本サンゴ礁学会誌
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石垣島における大規模白化後にみられた造礁サンゴ群集の崩壊と回復
藤岡 義三
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2002 年 2002 巻 4 号 p. 53-61

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抄録
1998年夏に起こった造礁サンゴの白化による群集の崩壊とその後の回復について、石垣島浦底湾の代表的な3定点 (内側礁原部、外側礁原部、礁斜面) において比較調査を行った。すべての調査地点で、造礁サンゴの被度、群体数、種数は大きく減少し、白化終了時の最終的な被度は白化以前の状態に比べて、外側礁原部でわずか8.2%、礁斜面で同26.2%、内側礁原部で同55.6%となった。白化による影響は種や地点によって異なり、外側礁原部で最も被害が大きく、礁斜面がこれに続いたが、最も水温が高かった内側礁原部では被害が小さかった。このことから白化による影響は、単に水温に依存するのではなく、群集の種組成によって異なるものと推察された。ミドリイシ属数種 (Acropora digitifera, A. nobilis, A. formosa, A. pulchra, A. microphthalma, A. hyacinthus, A. echinata, A. subglabra 等) は最も被害が著しく、外側礁原部および礁斜面のミドリイシ群集はほぼ完全に消失した。一方、内側礁原部に生息するコモンサンゴ属数種 (Montipora digitata, M. cactus, M. stellata, M. aequituberculata) は、夏期の高水温時に急速に白化したにもかかわらず、白化終了時には比較的高い割合でもとの正常な状態まで回復した。このことは高水温下に曝される機会が多いサンゴほど、潜在的に温度耐性が高いという可能性を示すものであり、そのような種では6ヶ月以上の長期間にわたって白化した状態のまま生存することが可能であった。
白化によって出現種数はすべての地点で減少したものの、多様度指数は調査地点ごとに異なった変化パターンを示した。これは白化による攪乱の程度に起因するものと考えられ、優占していた全てのミドリイシ類が壊滅的な被害を被った外側礁原部では多様度指数が急激に減少したが、一部のミドリイシ類の群体が生き残った礁斜面では均等度が増して多様性が高くなるという現象が認められた。この結果は、サンゴ礁における高い多様性が、非平衡状態下で維持されているという従来からの考え方を支持するものである。
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