2010 年 79 巻 1 号 p. 26-28
我々は先にコムギのグルテニン遺伝子Glu-1Dx5を遺伝子銃法でインドネシアのイネ品種Fatmawatiに導入し,導入植物の玄米胚乳中でGlu-1Dx5遺伝子の発現を確認した.本報告では,コムギグルテニン遺伝子導入イネのT2世代から約100gの玄米を用いて全粒粉パンを作成し,導入遺伝子が製パン特性に及ぼす影響を調査した.コムギグルテニン遺伝子導入イネの全粒粉,グルテニン遺伝子導入イネの全粒粉にグリアジンを加えたもの,対照としてコシヒカリの全粒粉,コシヒカリの全粒粉にグルテンを加えたもの,コムギ農林61号の玄麦全粒粉および市販のコムギ強力粉の6種類を原料として,同一の焼成条件の下で玄米パンを作成し比較した.Glu-1Dx5遺伝子導入イネから作成したパンは,市販の強力粉には及ばないもののコムギ農林61号やコシヒカリにグルテンを添加したものとほぼ同程度の外観を示したので,コムギグルテニンGlu-1Dx5遺伝子導入イネは,非組換えイネより製パン特性が向上したと判断された.本実験の範囲内ではコムギグルテニン遺伝子導入イネの全粒粉にグリアジンを加えたものと加えないものとでパンの外観に明らかな違いは見られなかった.以上のことから,イネにコムギグルテニン遺伝子Glu-1Dx5を導入することで米粉の製パン特性を改善できる可能性が示された.