日本作物学会紀事
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研究・技術ノート
  • 松尾 直樹, 深見 公一郎, 高橋 仁康, 中野 恵子
    2026 年95 巻3 号 p. 205-215
    発行日: 2026/07/05
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

    省力的に栽培可能な作物として,北日本を中心に1年1作の単作水田輪作体系に子実トウモロコシの導入事例が増えているが,西南暖地の2年3作あるいは2年4作の多毛作水田輪作体系における知見は少ない.そこで,本研究では,多毛作地帯に本作物を導入することを想定し,春播きと夏播き栽培における収量を評価した.試験1では春播き栽培と夏播き栽培における収量比較を,試験2では春播き栽培において晩生品種ほど多収になるかを,試験3では夏播き栽培において品種の早晩性と栽植密度が収量におよぼす影響を検討した.坪刈りは機械収穫の目安となる子実水分が30%以下になったのを確認後に実施した.3年平均した春播き栽培と夏播き栽培の収量はそれぞれ908と522 g/m2であった (試験1).春播き栽培では供試した相対熟度 (RM) 106,115,125の3品種のうちRM115の品種が2か年とも最多収となり1000 g/m2以上となる年があった (試験2).春播き栽培における収量の変動要因が生殖生長初期の日照不足であること,RM125程度の晩生品種は生育量が旺盛になり倒伏による減収リスクが高いことが示唆された.夏播き栽培では登熟可能な範囲で晩生の品種が多収になり,栽植密度を6.7本/m2から8.3本/m2に増やすことで約25%増収したが,収量は最大で697~772 g/m2であり,春播き栽培の収量水準 (1000 g/m2程度) には至らなかった (試験3).子実トウモロコシは省力栽培が可能かつ春播き栽培で多収となることから,今後さらなる規模拡大が想定される多毛作大規模経営体向けに,本作物の春播き栽培を導入した新たな輪作体系を構築していく必要がある.

  • 熊谷 悦史, 菱沼 亜衣, 山崎 諒, 髙田 吉丈, 大木 信彦, 加藤 信
    2026 年95 巻3 号 p. 216-231
    発行日: 2026/07/05
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

    近年の気候変動により,日本では夏季の異常高温が農作物に深刻な影響を及ぼしている.本研究では,寒冷地から暖地を代表する4育成試験地の2008~2024年の生産力検定試験データを用い,気温・土壌水分の偏差とダイズの発育・収量・品質・障害発生との関係を解析した.特に記録的高温となった2023・2024年を含め,17年間平均を基準とした偏差解析により,近年の気象条件の特異性を把握した上で,回帰分析を行った.播種から開花までの日数は気温偏差と強く関係し,気温1℃上昇で1.7日短縮した.開花から成熟までの日数は土壌乾燥により短縮する傾向が示された.収量は開花成熟期の気温偏差と弱いながら負の関係が見られ,高温条件で減収する傾向が示された.百粒重は気温1℃上昇で1.2 g減少し,子実タンパク含有率も気温1℃上昇で0.5%低下した.さらに,百粒重および子実タンパク含有率は土壌水分偏差とも弱いながら関係し,乾燥条件で低下する傾向が見られた.障害については,青立ちと気温との関係は不明瞭であったが,裂皮粒やしわ粒は開花成熟期の気温偏差と弱いながら正の関係がみられ,高温条件で増加する傾向が示された.これらの結果から,全国的に高温と乾燥が複合的に作用し,とくに2023・2024年には品質障害や減収が顕著化したことが示された.本研究は,偏差解析と回帰分析を統合して全国規模で影響を整理した点に特色があり,寒冷地でも被害が顕在化する可能性を裏付け,気候変動下でのダイズ生産安定化に資する基礎的知見を提供する.

  • 松山 宏美, 山脇 賢治, 高橋 飛鳥, 小島 久代, 清水 浩晶, 塔野岡 卓司
    2026 年95 巻3 号 p. 232-241
    発行日: 2026/07/05
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

    水田転換畑圃場において,麦茶用オオムギ品種「カシマムギ」と「カシマゴール」を用いて,基肥を減らした分を茎立期追肥で施用する生育後期重点窒素施肥および穂ぞろい期窒素追肥を要因とした栽培試験を行い,収量,子実品質,および麦茶加工適性を調査した.子実タンパク質含有率と麦茶粒および粉のL*値との間には2023年産にて有意な負の関係が見られ,子実タンパク質含有率が高いほど麦茶粒と粉の褐色の着色が良いことが示された.加えて,2023年産の麦茶粉のL*値については,穀粒硬度との間にも有意な負の関係が見られ,穀粒硬度が高いほど麦茶の着色が良いことが示された.本研究では施肥による収量への有意な影響はなかった一方で,子実タンパク質含有率は穂ぞろい期の窒素追肥によって高まり,麦茶加工適性も有意に向上した.また,穂ぞろい期の窒素追肥は原料麦の特性として重要な千粒重を増大させ,麦茶用の原料麦の安定供給に寄与すると考えられた.生育後期重点窒素施肥は,子実タンパク質含有率を高めたものの麦茶加工適性に及ぼす効果は小さく,年によっては遅れ穂の発生を助長し,麦茶用オオムギの施肥法として望ましくない可能性がある.以上のことから,麦茶用として高品質の原料麦を生産するためには,穂ぞろい期に窒素追肥を行うことによって子実タンパク質を高めることが有効であると示された.

  • 笠島 真也, 三浦 爽平, 古川 博規, 松中 仁, 辻 博之, 寺沢 洋平, 川口 謙二, 長崎 裕一, 西尾 善太
    2026 年95 巻3 号 p. 242-249
    発行日: 2026/07/05
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,パン用秋播性コムギ品種「ゆめちから」の後継候補系統「北海266号」における窒素追肥の時期および施肥量の違いが収量と子実タンパク質含有率に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした.試験1として2021年(播種は2020年)に芽室町の北海道農業研究センターで,試験2として2022年(播種は2021年)に美幌町の現地圃場で,起生期,幼穂形成期,止葉期における施肥量配分を変えた窒素追肥試験を実施した.「北海266号」は両試験地で「ゆめちから」よりも穂数が100本 m–2以上多く,多くの処理区で収量が高い傾向を示した.一方,子実タンパク質含有率は,両試験地において対照区に比べて起生期の追肥を省略または半減し,止葉期の施肥量を増加させた処理区で有意に高まった.収量と子実タンパク質含有率との間に有意な相関は認められなかったが,「北海266号」では穂数と子実タンパク質含有率との間に強い負の相関がみられ,穂数の増加が子実タンパク質含有率の低下と関連する特性が示唆された.さらに,施肥量の配分によっては,小穂の上位部や第2・第3小花で粒重低下が起こりやすい特性が明らかとなった.これらの結果から,「北海266号」は起生期の窒素施肥を抑え,止葉期に重点的に追肥を行うことで,穂数過多を回避しつつ高収量と高タンパク質含有率を両立できる可能性が示された.

  • 福嶌 陽
    2026 年95 巻3 号 p. 250-259
    発行日: 2026/07/05
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

    面積当たりおよび穂内位置別の子実の成長様式を,水稲とコムギの間で比較した.面積当たりでみると,水稲においては,開花5~20日後に穂重が大きく増加し,茎葉重が大きく減少した.コムギにおいては,開花10~30日後に穂重が大きく増加し,開花20~30日後に茎葉重が大きく減少した.穂内位置別に,開花20日後の粒重 (前期粒重),成熟期の粒重 (成熟粒重),およびその差 (後期粒重) を調査した.水稲においては,早く成長する穂内位置にある強勢粒は遅く成長する穂内位置にある弱勢粒より,前期粒重はかなり重いが,後期粒重はやや軽く,その結果,成熟粒重はやや重かった.コムギにおいては,強勢粒は弱勢粒より,前期粒重,および後期粒重の両方が重く,その結果,成熟粒重はかなり重かった.以上から,水稲においては,登熟前期の穂重の増加量が大きく,この間に強勢粒が優先的に肥大するが,登熟後期に強勢粒は籾殻により肥大が規定されるため,成熟粒重の穂内位置による変異は小さくなると推察された.これに対して,コムギにおいては,登熟後期の穂重の増加量が大きく,この間に強勢粒が弱勢粒より優先的に肥大することにより,成熟粒重の穂内位置による変異が大きくなると推察された.

  • 飛谷 淳一, 大森 雅希, 佐々木 壱, 黒瀨 大地, 松井 俊樹, 松本 奈緒子, 林 怜史, 義平 大樹
    2026 年95 巻3 号 p. 260-272
    発行日: 2026/07/05
    公開日: 2026/08/10
    ジャーナル フリー

    北海道のダイズ基幹品種「ユキホマレ」,「とよみづき」,「ユキシズカ」および北海道で多収を示す無限伸育性品種「OAC-Dorado」を供試し,2023年には江別のみ,2024年は江別と帯広にて,栽植密度は16.7本 m–2のTwin row栽培 (TR) を実施し,慣行栽培 (CR) と比較した.CRに対するTRの増収効果とその品種間差異,収量関連形質と受光態勢からみた増収要因を検討した.「ユキシズカ」と「OAC-Dorado」の子実収量は,すべての栽培環境でTRがCRに比べて19~29%,8~27%有意に高かったのに対して,「とよみづき」はすべての栽培環境にて有意な増収効果がみられず,「ユキホマレ」も2024年江別は増収効果がみとめられなかった.「OAC-Dorado」と「ユキシズカ」のTRの増収効果の高さは,増収効果が低かった「ユキホマレ」と「とよみづき」に比べて,TRによる葉面積の増加を含めた受光態勢の改善効果が高く,これに伴い莢数の増加効果が大きいことに起因すると考えられた.したがって,TRの増収効果の品種間差異は,主要因として受光態勢の改善効果が関与し,増収効果を安定的に得るには受光態勢が良好に維持または改善される品種や栽培環境が必要であると考えられた.TRの増収効果の品種間差異とTRの受光日射量の増加との間にも弱い関係はみられるものの,北海道の標準栽植密度16.7本 m–2においては,主要因であるとはいえなかった.また,この受光態勢の改善効果は栽培環境にも強く左右され,このことが生産現場の栽植様式による増収効果を不安定にしていると推察された.

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