抄録
地球温暖化によるイネ生育期間の気温上昇は出穂期を前進させ,その程度は東北地方において県や都市により異なることが知られている.本試験は山形県の中で日本海沿岸部に位置する庄内地域および内陸部の盆地に位置する村山地域の試験場で栽培したイネ品種「ササニシキ」の作況試験結果 (1980年以降) を用いて,移植から最高分げつ期の気象条件 (平均気温,日射量) と最高分げつ期の生育の年次推移および気象条件と生育の関係を解析した.いずれの地域でも移植から最高分げつ期の気象条件が1980年以降変化しており,庄内地域では平均気温の上昇が,村山地域では日射量の減少が認められた.最高分げつ期の生育について,庄内地域では最高分げつ期の前進,最高分げつ期茎数の減少およびイネ体乾物重の増加が,村山地域では最高分げつ期茎数の減少が認められた.庄内地域における最高分げつ期と最高分げつ期茎数は平均気温と負の相関を示し,イネ体乾物重は平均気温と正の相関を示した.村山地域における最高分げつ期茎数は日射量と負の相関を示した.以上より,移植から最高分げつ期の気象と生育の年次推移,および気象条件が最高分げつ期のイネ生育に及ぼす影響は,同じ山形県においても立地条件により差があることが明らかとなった.また,両地域ともに最高分げつ期の茎数減少は,収量構成要素である穂数の減少に繋がった.