2014 年 83 巻 4 号 p. 333-340
持続可能な稲作体系を確立するためには,窒素施肥量の最適化を図るとともに生理的窒素利用効率(NUE)の高い品種の育成が求められる.これまでの研究から,野生イネOryza nivaraのIRGC105715系統 (NVR) は低窒素条件下において高いNUEを示すことが見出されている.本研究では,NVRの光合成特性に及ぼす窒素施肥量の影響をO. sativa品種の日本晴と比較することにより検討した.窒素処理として3段階の窒素濃度区 (標準窒素濃度を1N区として,1/2N区,1/4N区) を設け,ビニルハウス内で水耕栽培を行った.栄養成長期における葉身の光合成関連特性を調査したところ,NVRの光合成速度,気孔伝導度および炭酸固定活性の指標であるCi/Gsは1/2N区と1/4N区で日本晴よりも高く,光化学系IIの最大量子収率についても1/4N区でNVRが日本晴を上回った.また,NVRの比葉重と葉身窒素含量は1/2N区と1/4N区で日本晴よりも高い傾向がみられた.光合成窒素利用効率 (PNUE) は1/2N区,1/4N区においてNVRが日本晴よりも有意に高かった.以上の結果からNVRは日本晴と比較して,低窒素施肥条件下で高い光合成能およびPNUEを示すことが明らかとなり,これには低窒素条件においても気孔伝導度,光化学系の活性および窒素含量を高く維持することが関わると考えられた.本研究で見出された野生イネO. nivaraの光合成特性は,低窒素投入型品種の育成にとって有用な遺伝形質となる可能性がある.