抄録
(1) 耐湿性の大なる蔓豆は湛水状態では第一次根の腐死に伴い, 茎根部に顕著な通気組織を形成し, 之を貫通して多数の不定根が生ずる. 通気組織は栓皮形成層と同質なる第二次形成層から発生する. (2) 耐湿性の小なる白大豆では皮目の如き通気組織を局部的に形成するに過ぎず, 且つ, 不定根の発生も少い. 第二次形成層の分化は不明瞭である. 大豆に見られる通気組織は一種の呼吸根或は皮目の如き作用を営む. (3) 大豆茎部の厚皮中には通気組織と認むべき顕著な細胞間隙は認められず, 従つて大豆は本質的に茎葉から根部え多量の酸素が運搬され易い形態を具えていないと考えられる. (4) 栓皮形成層は環境に応じ, 乾燥時には栓皮を生じ, 湿潤時には通気組織を形成する. 斯る第二次形成層の活動はホルモンの影響によるものと考える. (5) 水中に生育する不定根の先端部に於ける厚皮は分離細胞間隙に富み, 且つその古い部分では内鞘の分裂により通気組織が形成されている. 之等の不定根も酸素不足の土壤中に深く進入することは不可能である. (6) 大豆の耐湿性の大小は通気組織及び不定根の発生の難易により或る程度決定されるものと考える.