抄録
水稲の生育相に関する研究の一環として, 1958年に栽植密度が水稲の生育に及ぼす影響を研究した. 施肥水準を4段階とし, 一株3本植で, 株数を30, 60, 90 および120 株 (3.3m2当) とした. また3.3m2当本数を一定 (180本) にして株数を 15~180 株に動かした区を設けた. 個体当地上部乾重 (y) と栽植密度 (x) との間には生育が進むと, y=axb なる関係が成立し, bの値は-1にきわめて近くなるので, 単位面積当乾重は栽植密度が増加してもきわめてわずかな増加しか示さず, やがて一定となることを示している. 株当穂重および単位面積当穂重についても上と同様な関係が成立している. また茎数および穂数も栽植密度の変化に応じて一定の法則性にしたがい変化するが面積当茎数, 穂数は地上部乾重および穂重と異なり, 栽植密度の増加とともに増加する特長がある. 密植により水稲体内の澱粉含有率は低下し, また茎葉乾重中で葉身の占める割合がへり, 同化部分に対する非同化部分の比が高まる. 密植および多肥によつて, 出穂期以前の乾物生産に対する出穂期以後の乾物生産の割合が低下するが, これは生育後期における繁茂度と乾物生産との関係によるもので, 水稲体内窒素含有率の消長から見て, それが生育後期に窒素欠乏状態に陥つたがためではないことが分る. なお, 面積当個体数を一定にして株数を変化せしめた場合にも, 以上の変化とほぼ同様な変化が認められ, この範囲の栽植密度においては個体数の多少より, 株数の多少が密度効果を表わす. したがつて大株粗植より小株密植の方が乾物生産および収量上から有利である.