抄録
通常の剥皮に代る手段として, 熱によつて葉柄の篩管を閉塞するため特殊な電熱ヒーターを考案した. 種々の葉齢の葉について調査した結果, 熱処理を施した葉は無処理の葉に比べて, 昼間12時間に平均2倍以上の無機養分をとり入れることがわかつた. この事実は昼間同一の葉に対して, 無機養分の流入と流出が同時に行なわれていることを示している. リンとカリの流入と流出は日中きわめて活発で, 成熟葉の場合葉が若いほど流入・流出とも絶対量は多いが, 流入に対する流出の割合は古い葉において高い傾向がある. 夜間は流入なく流出のみ行なわれるが, 葉からの流出量は各葉において, 昼間の方が夜間よりもむしろ多量であつた. 意外なことは, 従来葉から移動し難いと考えられているカルシウムさえも, 昼間はリンやカリと全く同様に自由に葉から出入りするように思われることである. 実験の結果によるとカルシウムも日中盛んに葉に流入し, その一部(若い葉で37%, 古い葉で83%)は恐らく篩管を経て再び葉から流出しているものと考えられる. しかしカルシウムはリンやカリと異なり, 夜間は全く葉から流出しなかつた. これらの無機養分の葉からの移動は, 昼間は地上部の生長部分と密接な関係があり, 若し生長部分を除去すると葉からの移動ははとんど停止するに至るが, 夜間の場合はこのような関係は全く見られず, 葉からの移動(カルシウムを除く)は地上生長部の有無にかかわらず, 何れの場合も正常に行なわれた. チッソについての結果はほぼリンやカリに準ずるが, 若い葉を除き結果は不明瞭であつた.