抄録
人工光だけで植物ことに強光を必要とする作物が正常に生長, 分化ならびに発育をとげることができるかどうかを明らかにするため, 水稲, ダイズ, エンドウ, サツマイモ, トマト, アサガオおよびアスターを用いてグロースキャビネット内人工光と屋外自然光下で発芽から成熟まで長期間栽培して両者の生育を比較するとともに, えられた種子の発芽と初期生育をもしらべた. 人工光源として 1kW螢光水銀灯 4灯と 1kWヨーソランプ2灯を組み合わせて用い, 日長時間および日平均気温を自然の季節的変化に近以させた. その結果, 各作物ともに人工光下で良好な生育をしたが, 草丈または茎長が自然光下に比べて著しく大となりまた開花始期が多少異なつた. 人工光下において, 水稲, ダイズ, エンドウ, アサガオおよびアスターの開花, 結実は正常でいずれも多量の種子を生産した. また, トマトの開花, 果実の肥大, 着色が正常であり, サツマイモでは切干歩合がいくぶんおとるが自然光と等しい塊根重がえられた. 人工光および自然光の両条件下でえられた種子の発芽ならびに初期生育には本質的な差がみられなかつた. 本実験において, 人工光下での作物の良好な生育は照射エネルギーが自然光に匹敵するほど高かつたことによるものであり, 茎などの異常伸長, 開花期の移動はおもに光質が自然光と異なつたためと考えられる. したがつて, 人工照明のみによつて強光を必要とする植物を形態的にも生理的にも正常に生育させるためには, 光の強度だけでなく照射光の分光特性もなるべく自然昼光に近い光源を用いる必要がある.