日本作物学会紀事
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一穂籾数の制限,止葉剪除および日射の制限が日本型および印度型水稲の稔実に及ぼす影響
長戸 一雄チャウドリー F.M.
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1970 年 39 巻 2 号 p. 204-212

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抄録
穂の一部を剪除して1粒当り炭水化物の配給を多くしたり, 逆に出穂前またほ出穂後に止葉を除き, あるいは1週間日射を制限して炭水化物の配給を少なくして稔実に及ぼす影響を調べた. 1. これらの処理の影響は元来炭水化物の不足しやすい弱勢籾特に下部二次枝梗の第2・3粒に著しい. 2. 不稔は本来受精障害により発生し, 炭水化物の不足のみでは発生しがたいが, 炭水化物が著しく不足するときは発生するものと考えられ, ー穂籾数を減ずると, もともと不稔が著しく発生するKaralath-Te-Tepでほ明らかに減少し, 不稔の発生の少ないトワダ・キンマゼでは影響が少ない. 止葉剪除により不稔が増加する傾向があるが, 止葉半切でほ影響ほきわめて少ない. 日射制限では明らかに増すが, キンマゼ・Bluebonnetでは増加は少ない. 3. 発育停止は発育初期に著しく炭水化物の供給が少ないとき, その発育初期に発育を停止したもので, 死米は発育の初中期に炭水化物の供給不足で停止したものであるから, これらの処理の影響は顕著である. 籾数の制限で各品種とも著しく減じ, 止葉剪除や日射制限で増す. 処理によつて発育停止が増すか死米が増すかは, 炭水化物の供給が不足する時期や不足の程度によるものである. 4. 乳白米ほ登熟初中期の一時的な炭水化物の供給不足によつて発生するから, ー般に籾数制限で減じ,剪葉日射制限で増す傾向があるが,籾数制限で不稔・発育停止・死米を著しく減じて残つた籾の間の競合が残る場合は乳白米はかえつて増加し, 逆に剪葉や日射制限で不稔・発育停止・死米が著しく多発し, 残つた籾の間の競合が軽減されると乳白米の発生は減る. 5. Bluebonnetに生じた奇形米は内外頴の上部の結合が不十分で乾燥のため米粒の発育特に幅と厚さの発育が抑えられたときに発生する. この場合, 炭水化物の供給が不足しないときは透明になつて奇形米になり, 不足するときは死米になる. 従つて, このような奇形米は籾数を制限した区に多く発生した. なお, 内外頴の結合不完全ほ弱勢籾に起こりやすいので, 奇形米も弱勢籾に多い. この奇形米は搗精で砕米になる. 6. 腹白米は登熟後期に炭水化物の供給が不足したときに発生することがある. そのため一般に籾数制限で減じ, 煎葉・日射制限で増す傾向があるが, 出穂前の剪葉で籾数が減少したり,処理で不稔・発育停止・死米が多発して残つた籾への登熟後期の炭水化物供給が不足しない場合にほ腹白の発生が減ることもある. 7. 1穂籾数制限の影響は Dular・トワダ・キンマゼのように籾数と炭水化物の供給のつり合つた品種では小さく, Karalath・Te-tep など籾数多く競合のはなはだしい品種に著しい. また,剪葉は光合成の抑制が登熟の終りまで続くから1週間の日射制限より影響が大きいと考えられ, 特にキンマゼは葉が短かく直立し, 弱光下の光合成能が大きく, 日射制限の影響は剪葉より遙に小さいが, Te-tepは葉長く下垂するため弱光下の光合成能ほ著しく低下するため日射制限の影響は大きく, 反面剪葉(特に半切)の影響は小さい. この場合は, おそらく剪葉により日光の透射がよくなり補償されるためと考えられる.
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