日本作物学会紀事
Online ISSN : 1349-0990
Print ISSN : 0011-1848
ISSN-L : 0011-1848
稲穂各部位の維管束の発達と頴果の稔りとの関係
チャウドリー ファテ・ムハマド長戸 一堆
著者情報
ジャーナル フリー

1970 年 39 巻 3 号 p. 301-309

詳細
抄録
稲穂上の位置によつて穎果の発育に差があることはすでに知られており,その原因の一つは小枝梗維管束の発育の良否およびその数によるであろうことを川竹が指摘している. しかし小枝梗の外側維管束は副護穎に入り,そこで終わるから,外側維管束がその小穂の稔りに大きく関与するとは考えられない. そのため本実験で穂の各部位の維管束と穎果の発育との関係を調べ, 次の結果を得た. 1) 穂軸では基部から頂部に至るにしたがつて, 維管束が次々に枝梗に入るため, 維管束数を減ずるとともに穂軸の太さを減ずる. 2) 枝梗の基部では下部枝梗が上部枝梗より維管束の数が多く, 直径もやや大きい. このことは, 穂に集積する炭水化物などが不足する場合は早く稔る上部枝梗の各穎果の発育が下部枝梗の対応する穎果より稔りがよいが, 炭水化物などが充足する場合には下部枝梗の各頴果が上部枝梗の対応する穎果より大きくなることと関連するものであろう. 3) 二次枝梗基部の維管束は, 同一枝梗上の二次枝梗の間では,上の二次枝梗が下の二次枝梗より明らかに発達がよく,下位二次枝梗の穎果の稔りが不良になりやすいことを示している. 4) 小枝梗の維管束については, 一枝梗内では開花順序に従つて開花の早い小穂が遅い小穂より明らかに中央維管束(導管部,箭管部とも)の発達がよく, 外側維管束の数も多い. しかし,前記のように外側維管束の数は直接にその小穂の稔りに影響を与えるとは考えられないので, 中央維管束の発達の良否が最も大きな影響を及ぼすものと考えられる. すなわち開花の早い小穂は他に先だつて養分を吸収することと, 中央維管束の発達がよいことによつて稔りが良好であると考えられる. ただ, 各枝梗の先端小穂は第5,6位の小穂より多少維管束の発達が不良であるが, このことは先端穎果が第5,6位の穎果より常に小さいことと関連があるかもしれない. なお, 中央維管束の発達と外側維管束の数および発達程度とは平行するから第1表によつて中央維管束の発達程度を推察することができる. 5) 日本型2品種と印度型2品種の間の比較をすると, 日本型2品種間には差異はなく,印度型Karalathは小枝梗が細く維管束の発達も著しく劣り, 一穂籾数の多いことと相まつて稔りがはなはだ不良である原因と思われる. Te-Tepは一次枝梗に着生する小枝梗の維管束については日本型と大差ないが, ニ次枝梗着生の小枝梗の維管束は劣り特に下位の二次枝梗で著しい. このことはTe-Tepが日本型2品種に比し二次枝梗の稔りが著しく不良なことを示すものであろう.
著者関連情報
© 日本作物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top